電源回路の立役者・電圧レギュレータは、商用電源から流れてきた交流電流を、精密な電子機器に流すための一助を担っており、役割としては電流の安定化です。
とても重要な素子であるため、電子工作に携わっている方は、ちょくちょく耳にしているかもしれませんね。
このレギュレータ、実は動作または用いられる半導体によって、種類が分かれることをご存知でしょうか。
しかも、種類によって特性が異なるため、それぞれがどのようなメリット・デメリットを有するかを知ることはとても大切です。
そこでこの記事では、電源・電圧レギュレータの種類とそのメリット・デメリットについて解説いたします。
目次
1. 電源・電圧レギュレータとは?
単に「レギュレータ」と言ったり、調整器と呼んだりすることもある電源・電圧レギュレータ。
冒頭でもご紹介したように、電源回路内で用いられる電子部品となります。
コンセントに代表される商用電源は、交流電流が供給されています。
しかしながら多くの電子部品は直流電流で駆動する仕様となっています。
そのため、この交流電流を直流にならす必要がありますが、その役割を担うのが電源回路です。
電源回路は変圧回路・整流回路・平滑回路・安定化回路で構成されます。
電源・電圧レギュレータはこのうち、安定化回路に搭載される素子です。
それぞれの回路について解説いたします。
まず、トランスといった呼ばれ方でも有名な変圧回路では、商用電源を電子機器でも使える電圧へと降圧します。
商用電源からの交流電圧は地域によって数値が異なりますが、日本国内では100V。
とても電子機器で使えるような電圧ではないため、0.8V~20V程度に降圧する役割を担います。
その後、降圧された交流を整流回路で直流にならします。
しかしながらここで生成された直流は、まだ完全な直線ではありません。
脈流(リプル)が存在します。
そこで平滑回路でさらに直流の精度を上げることとなります。
ここまでの行程で直流は出来上がっているのですが、近年ますます高精度になる電子機器を前に、さらに安定してきれいな直流供給が求められています。
そこで、安定化回路で安定した電源供給を実現します。
これを担うのが、電圧レギュレータとなります。
基本動作は「一定の安定した電圧を出力する」というもの。
供給された電圧や出力電流にかかわらず、任意の電圧を出力させることができるのです。
この動作からおわかり頂けるように、直流をより高精度な直流にしているため、DC/DCコンバータ(デコデコ,デデコンなどとも)の一種であることも覚えておきましょう。
★DC/DCコンバータについて詳しく知りたい方はこちら
2. 電源・電圧レギュレータの種類~リニア式とスイッチング式~
電圧レギュレータは、大きく分けてリニア式とスイッチング式に分類されることがほとんどです。
これは、回路の種類の違いとなります。
それぞれを簡単に解説いたします。
① リニア式レギュレータ
「直線」の意味を持つリニア式レギュレータは、入力と出力の関係性が文字通り線型となっており、とてもシンプルな構造をしています。
任意の電圧を出力するために、出力電圧よりも若干高い電圧を入力して動作させますが、入出力の差をいつも一定にしなくては、安定して所望の電圧を取ることはできませんね。
そこで抵抗やトランジスタを用いて電圧降下を行い、一定の出力を供給することとなります。
この負荷素子を直列接続したものをシリーズ(またはシリーズドロップ)レギュレータ、並列接続したものをシャントレギュレータと呼びます。
なお、基本的にリニア式レギュレータは降圧のみを行うため、入力電圧は出力電圧よりも高くなくてはなりません。
半導体の電圧降下特性を用いるため、その手法はアナログと言えますね。
そのため、リニア式レギュレータのデメリットとして、あまり効率が良くない、ということがまず挙げられます。
使われる半導体にもよりますが抵抗素子で電力を消費すること。
加えて負荷素子はえてしてジュール熱が発生してしまい、その分の損失に繋がります。
効率が悪いということは大電力の回路では用いられず、従って大きな出力電圧は望めません。
一方でメリットもあります。
まず、何よりもノイズが少なく安定していること。
また、回路設計が非常にシンプルなため低価格であり、外付け部品も少なく済みます。
もっとも、ジュール熱を放熱させるためのヒートシンクを搭載することで、専有面積は大きくなる傾向にあります。
リニア式レギュレータで有名な素子としては三端子レギュレータが挙げられます。
こちらはシリーズレギュレータに分類されます。
また、近年では低損失に特化したLDO(Low Drop Out)と呼ばれるレギュレータが販売されており、リニア式レギュレータの弱点を補うようになってまいりました。
シャントレギュレータとしてはツェナーダイオードの使用が挙げられます。
ツェナーダイオードとは定電圧ダイオードとも呼ばれており、ダイオードのアノード・カソードに逆方向に電圧印加することで「降伏(こうふく)現象」を起こす特性を利用したものです。
降伏現象とは、通常ダイオードに逆方向電圧をかけても電流は流れないはずなのですが、一定を超えて高い電圧を超えると急激に電流が流れだす、という動作を指します。
この時、電流は増加しているにもかかわらず、実は電圧はほとんど変化しません。
ツェナーダイオードを逆方向に回路に接続させることで、高い電圧を印加して電流を流し、安定的な出力電圧を得る、というのが基本原理です。
シャントレギュレータはノイズの低さや回路設計のしやすさからオーディオ機器等ではよく用いられていますが、降伏現象を引き出すためにきわめて膨大な電力を消費するため、シリーズレギュレータを超えて低効率な素子となってしまいます。
そのため、通常の電子工作にリニア式レギュレータを用いる場合は、シリーズ型の方を選択することが一般的でしょう。
② スイッチング式レギュレータ
リニア式レギュレータと対を成しているのがスイッチング式レギュレータです。
文字通りスイッチの高速オンオフによって電力の安定化を図る素子となります。
供給されてきた電圧に対して、スイッチング素子が高速でオンオフを繰り返すことで所望の電流を得ることができます。
当然入力電圧によってどのような波形を採っているかはケースバイケースですね。
そのためスイッチングの比率を制御することで、その場で必要な直流を得る仕組みとなっています。
このスイッチング素子は、インダクタ(コイル)とコンデンサと一緒に用いられることが一般的です。
出力側の電圧が高くなった場合はスイッチをオフにして、一緒に用いられるインダクタ・コンデンサで電荷を蓄えます。
入力側の電圧が高くなった場合は、スイッチをオンにして入力電圧を出力側に流し、いつも安定した電源供給を可能にしているのです。
このようにスイッチング式レギュレータは出力側の電圧を降圧することも昇圧することも反転させることもできる、というのが大きな利点です。
それ以外のメリットとしては、リニア式レギュレータに比べて、損失が少なく効率が高いことが挙げられます。
抵抗素子で電圧降下を行うのではなくスイッチングによって制御しているため、ジュール熱が発生せずきわめて低消費電力での稼働が可能なのです。
こういった特性から大電流下の回路で用いることもでき、汎用性は高いと言えるでしょう。
一方でスイッチングはノイズが大きく、何らかの対策が必要であるということ。
また、回路設計が複雑だったり規模が大きくなりがちで、パッケージ商品も高価格帯となることがデメリットとして挙げられます。
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3. 電源・電圧レギュレータの種類~三端子レギュレータとバイポーラトランジスタとCMOS~
上記で解説した「リニア式」「スイッチング式」が電源・電圧レギュレータの大まかな種類分けとなります。
しかしながら、実は使われるトランジスタによっても種類分けを行うことが可能です。
それは、「三端子レギュレータ」か「バイポーラトランジスタ」か「ユニポーラトランジスタ」か、というものです。
三端子レギュレータはリニア式レギュレータで主に用いられますが、後の二つはリニア式・スイッチング式両方で活躍しています。
詳しく解説いたします。
① 三端子レギュレータ
三端子レギュレータは、リニア式レギュレータの中でも非常に古くから用いられてきた素子です。
後述するバイポーラトランジスタを使った電源・電圧レギュレータとも類似しています。
IN、OUT、GND(グランド)の三端子を有しており、INに入力電圧を印加し、OUTから出力する仕組みとなっています。
そしてGNDは文字通りグランド、すなわち基準電位となります。
製品にもよりますが入出力側の端子にコンデンサが使われていることが一般的で、そのためノイズが少ないというメリットを有します。
一方で降圧のために余分な電圧をジュール熱として放出しているので、多くのリニア式レギュレータ同様に損失が大きく低効率というデメリットを内包しています。
また、放熱のためのヒートシンクが必要となるためどうしても回路が大型化しやすく、機器の小型軽量化には向きません。
② バイポーラトランジスタ
リニア式レギュレータには、いくつかの弱点がありました。
しかしながらバイポーラトランジスタを使うことで、その一部を補うことが可能となります。
バイポーラトランジスタとは、正負両極の電荷がそれぞれお互いの動作に干渉するタイプのトランジスタです。
そのため「バイ」ポーラと呼ばれています。
電荷を集める「コレクタ」、電圧印加によって電流を流したりストップさせたりする「ベース」、出力側に位置する「エミッタ」で構成されていることが特徴です。
駆動方式は電流であり、ベース電流に適切な電圧印加を行うことで電流を流す仕組みとなっています。
リニア式レギュレータは抵抗素子で電力を消費するため低効率でしたが、バイポーラトランジスタはベース電流で制御を行います。
従って降圧時の発熱が小さく、大電流下での使用が可能であり、出力電流も大きくすることができます。
もちろんバイポーラトランジスタにもコレクタ電流の増加に伴う発熱はありますが、従来型のリニア式レギュレータと比べると小さく、高効率と言えます。
また、大量生産されているため低価格であり、一般家庭から様々な産業まで、多くのシーンで活躍してきました。
なお、トランジスタはスイッチングも行うため、スイッチング式レギュレータにもバイポーラトランジスタが用いられております。
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③ CMOS
前述した三端子レギュレータとバイポーラトランジスタもまた非常によく用いられていますが、近年注目度が高いレギュレータ素子があります。
それは、CMOSと呼ばれる半導体です。
バイポーラトランジスタに対し、こちらはユニポーラトランジスタと呼ばれます。
ユニポーラトランジスタは正負どちらかの電力が動作に関与すること。加えて駆動方式が電圧であることが特徴です。
そんなユニポーラトランジスタの一種・CMOSはComplementary MOS FETの略称で、「相補的なMOS FET」を指します。
さらにMOS FETとは、Metal Oxide Semiconductor(金属酸化膜半導体)+Field Effect Transistor(電界効果トランジスタ)を意味しており、三つの端子をコレクタ・ベース・エミッタとは呼ばず、ドレイン・ゲート・ソースと言っています。
MOS FET、ひいてはCMOSの特徴は、何と言っても低消費電力であること。
と言うのも、CMOSは電圧駆動であるため、電圧印加後にゲートが電荷を蓄えれば電流を必要としないため。
そしてバイポーラトランジスタの「飽和電圧」と呼ばれる電気的特性を持たないためです。
飽和電圧とはエミッタから電流が流れている時、電圧降下を起こして入出力電圧間に差が開いてしまうことです。
また、基本的に入出力電流の電位差が小さいため、長時間に渡って機器を動作させるのに適しています。
さらに言うと小型軽量化が容易なため、集積化が進む近年の電子回路で重要な立ち位置を占めてきました。
なお、CMOSもまたリニア式レギュレータ・スイッチング式レギュレータどちらにも活用することが可能です。
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4. まとめ
電源・電圧レギュレータの種類について解説いたしました。
電源・電圧レギュレータは主に電源回路の安定化で役割を担っていること。
回路の攻勢によってリニア式・スイッチング式に分類されること。
さらに素子によって三端子レギュレータ・バイポーラトランジスタ・CMOSと種類分けすることができ、三端子レギュレータ以外はリニア式・スイッチング式どちらにも用いられること。
中でもCMOSは低消費電力かつ小型軽量化が可能で、近年ますますの注目度が集まっていることをご理解いただけたでしょうか。
高精度な電子機器の駆動を助ける電源・電圧レギュレータについて、理解を深められていたら幸いです。
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