ポテンショメータをご存知でしょうか。
抵抗値を任意の値に変更できる可変抵抗のうちの一つですが、オーディオのボリューム調整といったアナログ電圧の制御・設定から、カメラのズームレンズ制御といった位置・角度検出センサまでと、幅広い用途で用いられている電子部品です。
仕組みはシンプルですが、様々な産業からのニーズが高いため種類がとても豊富。
また、近年では小型化が進み、集積回路タイプも発売されるようになりました。
この記事では、ポテンショメータの原理や仕組み、特性、種類や用途などをご紹介いたします。
目次
1. ポテンショメータとは?
ポテンショメータは、英語でpotentiometerとつづります。本来は回転角や移動量を電圧変換する電子機器のことを指しましたが、その機器に可変抵抗器が用いられていることから、英語圏では可変抵抗器の総称をポテンショメータとまとめて呼びます。
可変抵抗器とはどういったものかと言うと、電子部品の中で最もベーシックな抵抗器の一種ですが、可動するつまみなどを用いることで用途によって抵抗値を変化させることができるものとなります。
最もよく知られた可変抵抗器の使い道はオーディオなどのボリューム調節ではないでしょうか。
そのため「ボリューム」などとも呼ばれることがあります。
固定型の抵抗器には端子が二つ付属していますが、可変抵抗器にはそこにプラスしてもう一本の端子が付けられます。
このもう一本の端子がワイパー(摺動子・しゅうどうし)の役割を果たし、好きな抵抗値に変化させることができるのです。
先ほど、ポテンショメータは「英語圏では可変抵抗器の総称」と申し上げましたが、厳密には可変抵抗器のうちの一種となります。
では、ポテンショメータと言う時、どのような役割・原理・構造を持つのかを解説していきます。
① ポテンショメータの役割
抵抗器は電流・電圧を調節したり、電子回路内で分圧したりといった役割を果たします。
ポテンショメータは用途によって任意の抵抗値に変化させることでこれらを実現しています。冒頭でもご紹介したように、オーディオのボリューム調整などアナログ電圧を設定・制御するといった用途で使われてきました。
もう一点、ポテンショメータの大切な役割。それは、変位センサです。
変位センサとは、対象物までの距離や寸法などの測定が可能なセンサを指しますが、ポテンショメータはワイパで機械的に位置を変化させ、その変位量と出力された電圧から距離・寸法などを測定する、というもの。カメラのズームレンズの制御や工作・建設機械などのアーム操作の角度検出などに用いられます。
仕組みは後述しますが、シンプルで使いやすいうえに、微妙な調節が可能であること。
加えて精度が高いことから私たちの身の回りのあらゆる電子機器に用いられています。
② ポテンショメータの原理・仕組み
ポテンショメータの原理・仕組みは至ってシンプルです。
基本的な構造は抵抗体と、その表面を移動するワイパでできており、このワイパの変位量に応じて抵抗値を変化させることができます。
抵抗体から出る二本の端子にそれぞれ定電圧を加えて使用しますが、ワイパの位置によって変動する電圧が三つ目の端子から出力されます。
抵抗体はほぼ一定に塗られているので、抵抗値はワイパの回転角度とほとんど比例して変位します。
この原理を利用して、アナログ電圧を調整したり、変位量を実際に出力された電圧で測定し、変位センサとして利用したりします。
ワイパの可動スタイルには種類があり、最もオーソドックスなものは円筒形状の回転可変型(ロータリーポテンショメータ)や、ワイパが直線で可変するリニア型(リニアポテンショメータ)などが挙げられます。
ロータリーポテンショメータには単回転型・多回転型・エンドレスに回転できるものがラインナップされています。
③ ポテンショメータの特性
使われる抵抗体や大きさ、ワイパの接触方式などによって特性は異なります。
例えば抵抗値の変化特性は必ずしもリニア型(直線型)ではなく、A~Dカーブがあり、用途によって選ぶものは異なります。
その他、寿命や周波数特性、応答性なども様々です。
しかしながらポテンショメータの多くに共通していることは、周辺回路がシンプルで扱いやすい、ということです。
また、微妙な調整が可能で、かつ変換精度に優れます。
一方で機械的な可動部分を持っているため、摩耗を繰り返すと劣化したり、電気的なノイズが発生したりすることがあります。
④ ポテンショメータの用途
ポテンショメータは便利なうえに高精度。そのため身の回りの電子機器はもちろん、工作機械や建設機械、医療機器、船舶機器など産業用途で幅広く使われてきました。
オーディオ以外にもラジオの周波数を調整したり、ゲームのコントローラスティックとして操作したりできます。
また、精密な測定が可能なため、ロボットの制御や車のパワーステアリングの位置検出用、テンションコントロール(張力制御)などの変位センサとしての活躍も目覚ましいものがあります。
2. トリマポテンショメータとは?
英語のtrimmerは「調整する」「整頓する」などの意味を持ちますが、ポテンショメータに付けられた場合は半固定抵抗器を指します。
可変抵抗器の一種ですが、一度抵抗値を決定したらその値で使い続けるものとなります。日本語では半分固定で半分可変抵抗器、というわけですね。
この抵抗値は初期設定時の調整などにおいて決定されます。
なぜポテンショメータではなくトリマポテンショメータが必要かと言うと、トリミングという目的があるため。
電子回路は多数の電子部品によって構成されます。
当然、他パーツ同士で負荷許容量などに差があるため、この「差」を取り除く調整のために用いられるのです。
こういった差は、使用下で何度も何度も調整するものではありませんよね。
むしろ、抵抗値が変動してしまっては大変です。
そのため、半分固定で半分可変のトリマポテンショメータが活躍する、というわけです。
構造としては、ポテンショメータと同じく三端子がつけられています。ワイパは単回転型が主流ですが、バックラッシュ(回転戻り)があるため、精密な設定には多回転型が採用されます。
使い方としては、最初に抵抗値の設定を行えばあとは通常の固定抵抗器と同じように扱うだけです。
抵抗体には一般的にはカーボン、巻線抵抗や薄膜抵抗、そしてサーメットが用いられます。
民生用であれば安価なカーボンなどが使われることも少なくありません。
しかしながら、安定性や信頼性が重要視される産業においては、サーメットを使った製品が多くなります。
サーメットとは複合材料で、セラミックスと金属を練り合わせたものです。ちなみにサーメットはcermetと表記するのですが、ceramicsとmetalから成る造語。
セラミックスより靭性(もろさ)がわずかに高い新素材として開発されて以来、電子部品や機械部品などに用いられてきました。
安定性があり抵抗値が変化しづらく、温度特性も高いです、また、抵抗範囲が広いため、微細な変化にも対応します。
その他にもノイズ発生が少ない、といった、多彩なメリットを持つことから、人気の高い素材でもあります。
3. デジタルポテンショメータという選択
これまで解説してきたポテンショメータは、全て機械的な動作によって稼働するものとなります。
ポテンショメータの「特性」の部分でも触れましたが、機械的動作に依存するパーツは、どうしても摩耗などによってノイズが発生したり、本来の性能を発揮できなくなり寿命を迎えたりすることが避けられません。
そこで近年、「非接触型」のポテンショメータ開発がさかんです。
コイル式、光学式など様々なスタイルがありますが、民生用でよく出回るもので、一般的なデジタルポテンショメータをご紹介いたします。
デジタルポテンショメータはワイパをマイコンなどのデジタル信号で設定するものです。
電子ボリュームといった呼び方もされます。
デジタル信号で可変を行うため、機械的なワイパは存在しません。
仕組みとしては、ポテンショメータ内部にスイッチと抵抗が配列されています。
このスイッチにはCMOS(シーモス)トランジスタが用いられています。
CMOSとはComplementary MOSの略で、相補型MOSという意味。
電界効果トランジスタのタイプの一つで、機械的な接点なしに入力された電圧や信号を橋渡しすることができます。
このCMOS、ただ機械的な接点を要さないだけでなく、小型軽量。実際、CMOSが使われたデジタルポテンショメータは小型です。
また、高精度で入力抵抗が高いため消費電力が低く済みます。長寿命、かつ第三者が設定を変えられないのでセキュリティ面で安心、など、盛りだくさんのメリットですね。
「でも、CMOSだったら、電源が切れたら動作しなくなって、せっかく設定した抵抗値が消えてしまうのでは?」そうお考えになるかもしれませんが、不揮発メモリをデジタル回路に組み込むことで、電源を切ったとしても抵抗値はそのまま保たれます。
ただし、基本的にデジタルポテンショメータは一つのIC(集積回路)になっていますが、このメモリは組み込まれていないこともあります。ご注意ください。
使用は機械式ポテンショメータと変わりません。三端子で電圧調整・電流調整・変位センサなどの役割を果たします。
また、機械式と原理自体は一緒なので互換性があることがほとんどです。
ただし、CMOSが使われているので、機械式ポテンショメータとは特性は全く異なります。
もっとも、それは抵抗体素子によってそれぞれ異なる半導体デバイス全てに言えることですね。
4. ポテンショメータの選び方
冒頭でも触れたように、ポテンショメータは本当に種類が豊富です。では、どれを買うのが正解なのか。
それは、用途や許容コスト、使用条件下などによって異なります。
例えば機械式ポテンショメータ一つとっても、その形状は様々です。
ワイパは一般的にはつまみを装着しますが、そのつまみも丸棒、切り欠き、ローレットなど様々。もちろん長さも異なります。
これは、設置する回路のスペースなどによって選び方が変わってきますね。
その他ワイパのトルクや精度、定格電流や抵抗範囲など、抵抗体素子によって変わるところも少なくありません。
また、ポテンショメータの仕様書を見ていると、「単独直線度」という言葉が出てくるでしょう。
前述のように、抵抗値の変化特性は必ずしもリニア型(直線型)ではありません。
用途によってカーブを変える必要があります。
さらに、デジタルポテンショメータの魅力はお話した通りで、長寿命で高精度、なら絶対デジタルポテンショメータか、と言うと一概には言えません。
確かにデジタルポテンショメータを選択するメリットは多いですが、抵抗値の変更を頻繁には行わない・そこまで精度を求めないのであれば、通常の安価なポテンショメータで事足りることが少なくありません。
どれがいいかわからない場合は、商品説明の「用途」を確認する、あるいは購入店のスタッフに納得するまで質問しましょう!
▶ポテンショメータの購入はこちらから
▶ポテンショメータのカテゴリ一覧の確認はこちらから