
サイリスタをご存知でしょうか。
あまり聞きなれないかもしれませんが、パワー半導体の分野において、ダイオードやトランジスタに次いで存在感のある電子部品です。
とりわけ大電流下のスイッチング素子として活躍しており、自動車や鉄道などの輸送機器から送配電装置までと、様々な分野での電力制御回路として活躍してきました。
この記事では、そんなサイリスタの原理・仕組み、用途や特性について解説いたします。
併せてサイリスタの利便性をより高めたトライアックについてもご紹介いたしますので、パワー半導体を支える要をこの機会にぜひ覚えてくださいね。
1. サイリスタとは?
サイリスタは「ダイオードにゲート端子をつけたもの」「トランジスタの接合面を増やしたもの」など様々な呼ばれ方をされますが、簡単に言うとスイッチングによって電流制御を行う電子部品です。
ダイオードともトランジスタとも異なるのが、三つの端子を持っていること。
それぞれゲート、アノード、カソードと呼ばれ、ゲートが制御端子、アノードが正端子(陽極)、カソードが負端子(陰極)となります。
このカソードに電圧印加を行うことでアノード=カソード間に電流を流し、制御を行う半導体素子です。
トランジスタのように増幅は行えませんが、大電流に耐えられることが大切な特徴となります。
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サイリスタは、しばしばパワー半導体業界におけるビッグウェーブに喩えられます。
パワー半導体はあらゆる半導体の中で、「縁の下の力持ち」です。あまり表面的には使用が目立ちませんが、直流と交流を変換したり、電力の昇降圧を行ったりと、電力制御を目的に開発されました。半導体によって電力制御を行うきっかけを作ったのがサイリスタなのです。
と言うのも、パワー半導体以前は、こういった電力制御を水銀整流器が担っていました。
水銀整流器とは内部を真空状態にしたガラス容器などで、水銀のアーク放電現象を利用して電力変換させるデバイスです。
ただ、ガラスであったため機械的に脆弱で製造に制約が大きく、また信頼性も高いものではありませんでした。
それを解決したのがシリコンでできたサイリスタです。
1956年、アメリカのG社によって開発されました。
当時はSCR(Silicon Controlled Rectifier:シリコン制御整流子)の名前で発売されたため、今でもサイリスタを指してSCRと呼ぶこともあります。
その後1963年、R社がサイラトロンと動作がよく似たトランジスタ、という意味を込めてサイリスタと呼び、以後統一されました。
さらに時代を経てシリコン単結晶の高純度化・高品質化が進むにつれて性能が飛躍的に上がり、今ではあらゆる局面でパワー半導体は必要不可欠な存在となっているのはご存知の通りです。
後述しますがサイリスタは高速スイッチングができないことから、現在はそれが可能となったIGBTに置き換わる局面もあります。
しかしながらメンテナンスコストも低く済むサイリスタは、まだまだ現役で活躍し続けてくれるでしょう。
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2. サイリスタの原理と仕組み
サイリスタは、p型半導体とn型半導体が4層になったような構造をしています。
pnpnと言った順番で並んでいます。
これはすなわち、pnp型およびnpn型のバイポーラトランジスタを並べた、ということ。
さらにそのトランジスタの一方のベースとコレクタを、もう一方のコレクタとベースにそれぞれ接続しました。
pnpトランジスタとnpnトランジスタで複合回路を作っているような様相です。
そして、p型半導体にアノード、n型半導体にカソード端子を取り付け、さらに中央のnまたはp型半導体のどちらか一つにゲート端子をセッティングしました。
ちなみにp型半導体にセットされたゲートはPゲート、n型半導体のものはNゲートと呼びます。
このサイリスタに正の電圧を印加してみましょう。
アノード側からカソード側に印加しても、電流は流れません。
隣り合うn型半導体とp型半導体の間に空乏層ができてしまうためです。
これは半導体そのものの性質です。
n型半導体の自由電子とp型半導体の正孔が結合して打ち消し合ってしまい、電気を運ぶ役割を持つもの(キャリア)がいなくなってしまいますね。
これはカソード側から電圧を印加しても同じことです。
しかしながらゲートに正電圧をかけ、電流を通過させることでアノード=カソード間に電流が流れます。
と言うのも、アノード側から供給された自由電子に勢いがつくためp型半導体につかまらずカソード側に流れ込み、結果として電流が流れるのです。
ただし、ここでゲート信号に負電圧を印加することはできません。
一方で一度電流が流れると、ゲートに電圧をかけなくなっても勢いが止まらず電流が流れ続けます。
これを保持(ラッチ)と呼び、電流がゼロになるまで流れ続けます。
そのため一度導通したらそれを維持するのが望ましいカメラのフラッシュ機能などでも重宝されます。
なお、サイリスタを電流がゼロになるのを待たずにオフ状態にするためには、別途素子や回路が必要となってきます。
ちなみに素子のオンオフを外部からの信号によって任意に変える能力を自己消弧能力と呼び、消弧専用の回路を転流回路と呼びますが、サイリスタにはこの転流回路が必要、というわけです。
こういった素子を他励式と呼びますが、IGBTが転流回路不要の自励式であることからも、IGBTの利用が進んでいる感は否めません。
しかしながら交流電源の場合は、電圧がゼロになるため自然とオフになります。
また、この転流回路を有したサイリスタの一つにGTOサイリスタがあります。
GTOとはゲート・ターン・オフ((Gate Turn Off)の略称で、ターンオフとはオフ制御のことです。
ゲートに負の電流を流してアノード=カソード間に流れている自由電子を引き抜きやすくし、電流を止めてオフ状態にすることが可能です。
ただしオフにするには大電流が必要なため、大容量のゲート回路が必須です。
3. サイリスタの便利な特性と用途
サイリスタの特性は、多くのケースでそのままサイリスタのメリットとなります。
まず、繰り返しになりますが大電流下のスイッチングに優れていること。
しかも、小さな信号で大電流を制御することができるため、リモコンでテレビやエアコンといった大きなパワーの電化製品のオンオフなどが可能になります。
また、こういった大電流の条件下で使うあらゆるデバイスは、保護回路を必ず作らなくてはなりません。
万が一にも過電流が流れた場合、半導体素子は劣化したり破損したりするなどの影響が及ぼされ、結果として機器の不具合に繋がるためです。
そんな時、サイリスタは保護回路に用いるのに最適です。
そもそもサイリスタとは、ゲートから電圧印加を止めた場合においても、電流が流れ続ける、という特性がありました。
こういった素子はえてして過電流耐量が大きいため、予期せぬ突入電流などが発生した時でも、破壊されることなく機能を発揮できるのです。
また、電流がゼロになればそのままオフになるため、他の回路への遮断性も高いと言えます。
適切な条件下で使用していれば、小まめにメンテナンスする必要がない、というのも嬉しいところです。
ただ、トランジスタやIGBTに比べると高速スイッチングには向いていないため、あくまで大電流下で使うのに適しています。
用途としては前述したリモコンからの小信号を受けてテレビを動かす電源機能や、家庭用インバータ、電車のモーターの回転制御、スイッチング作用を利用した産業機器の電力制御などが挙げられます。
4. サイリスタの使い方
サイリスタのオンオフを自在に行うには、転流回路を用意する必要がある、と述べました。
こういった回路を組むのは結構複雑。
でも、ご安心ください。近年では用途に合わせて必要な素子・回路を組み込んだサイリスタモジュールを使うことが一般的です。
このモジュールを使えば機器に接続するだけ。
しかしながら製品によって最大定格、動作電源電圧範囲、放熱特性などが異なってきます。
データシートをよく読んだうえで適切にお使いください。
5. トライアックとは?
トライアックはサイリスタの応用版です。
1964年、アメリカのG社が世界に先駆けて発売したtriode AC switchという商品名を略してTRIAC(トライアック)と呼ぶようになりました。
トライアックがどのようなものかと言うと、二つのサイリスタを互いに逆向きに、並列接続した回路となります。
通常のサイリスタは一方向の電流に対しオンオフ制御を行っていましたが、逆向きに繋げることで流れてくる電流の双方向を制御できるようスペックアップした素子と言えます。
通常の半導体素子は直流電源で駆動しますが、トライアックは双方向に電流が流れるので、直流でも交流でも使用することが可能です。
そのため主に交流の制御に用いられることが多くなります。
基本的な動作原理はサイリスタです。ゲート信号が入力されていない状態では、順方向バイアスであってもトライアックはオンにはなりません。
ゲート信号に電圧印加するとアノードからカソードへ電流が流れ、ゼロになるまでその状態を保持します。
サイリスタと大きく異なるのは、逆方向バイアスであっても、ゲート信号に電圧印加すれば、トライアックはオンし、アノード=カソード間に電流が流れる、ということです。
つまり、正負どちらの電流も流すことが可能なため、サイリスタではゲート信号には正の電流しか流せませんでしたが、トライアックではそれが可能です。
ただし逆方向バイアス時にゲート信号に正の電圧を印加することは一般的にはできません。
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