ジャイロセンサー、またはジャイロスコープをご存知でしょうか。
例え知らなかったとしても必ず恩恵を受けているはずです。
ジャイロは、スマートフォンやデジタルカメラをはじめ、車、飛行機、ロケットにロボットなどありとあらゆる産業で活用されており、こういった高次の電子機器や輸送用機器を製作するうえで、その存在は無視できません。
そこでこの記事では、ジャイロとはどういったものなのか。原理や仕組み、特性、用途や購入するジャイロセンサーの選び方について解説いたします。
目次
1. ジャイロとは
ジャイロはセンサーのうちの一つです。ジャイロセンサー、またはジャイロスコープとも呼ばれます。
ギリシャ語のGyrus「輪」から名前をちなみます。
ジャイロを理解するには、まずセンサーとはどういったものかを知らなくてはなりません。
① センサーとは
センサーとは人の五感を始め、外部からの物理的および化学的な刺激を捉え、その刺激量を測定するものです。
センサーが搭載された機器は、検出した刺激量をもとに、ユーザーが快適に使えるように応答・変化します。
例えば現在、スマートフォンには周囲の明るさに応じて液晶ディスプレイの明るさを自動調節する機能が備わりますが、これは照明センサーが搭載されているためです。
また、通話中に画面の誤作動を防ぐために、顔が近づくとタッチ操作を無効にする「近接センサー」なども使われています。
このように、センサーは機器類の使用に欠かせない存在となっています。
しかし、気温、気圧、測定機器自体の温度など、センサーの使用環境下は必ずしも一定ではないため、測定結果には誤差が生じます。
こういった、ある程度許容されるべき、環境によっての変動が予測される値は、「不確かさ」(1980年のISOによる提唱。それ以前は他の電子部品同様に誤差と呼ばれていた)と呼ばれます。
しかしながらスマートフォンやデジタルカメラ等の高次の精密機器や、自動車、飛行機など安全管理が重要な輸送機器において、不確かさは望ましくありません。
そこで、注目を浴びているのがジャイロです。
ジャイロは、非常に高性能・高精度のセンサーで、上記のような正確性が求められる機器類に広く使われてきました。
② ジャイロの機能
ジャイロは、物体の動きを検知するのが主な機能で、1秒間あたりどれくらいの角度が変化したかを測定する角速度センサーです。
ジャイロが搭載された機器類を基準軸とし、「回転角度」の変化を検知します。
単位はdps(degree per second)、1秒間あたりの傾いた角度で表します。例えばある物体が1秒間で180度回転したとすると、角速度は180dpsということになります。
ジャイロセンサーが搭載された機器は、角速度を検出することによってその量に応じた動きを行います。
例えばスマートフォンやデジタルカメラに搭載された手ブレ機能。
どれくらい機器がブレたか(どれくらいの角度が1秒あたり変化したか)を検出して、ブレを自動補正してくれています。
さらに、ジャイロを始め、物体の動きを検知するセンサーは「慣性センサー」と呼ばれることもあります。
慣性とは、物体が外からの力を受けない限り、同じ状態を保とうとする性質のことです。
この性質を利用したセンサーの機能として、姿勢が乱されにくくなる、といったものがあります。
そのため、慣性センサーのうちの一つで、かつ高性能・高精度なジャイロは、航空機、自動車、船舶などの慣性航法に使用されてきました。
ちなみにロボットの二足歩行が倒れず、スムーズになったのもジャイロのおかげです。
ジャイロを搭載することで姿勢を制御し、転倒を防止したり、正しい航法を導いたりすることが可能となります。
以上をまとめると
■角度及び角速度の検出
■慣性力による姿勢制御
この二つが大きなジャイロの機能と言えます。
なお、同様の慣性センサーとして、加速度センサーが挙げられることもあり、ジャイロと原理などがよく似ています。
加速度センサーは1秒間における速度変化を測定するもので、ジャイロ同様に「どれくらい動いたか」で応答し、前述の手ブレ補正などに応用されています。
しかしながらジャイロと違って人間の関節が行う微妙な回転などは検知しません。
2. ジャイロの種類別にみる原理・仕組み
ジャイロの原理や仕組みを端的に表すとすれば、「回転しているコマがその姿勢を維持しようとする性質」を利用したものです。いわゆるジャイロ効果です。
決して新開発といったものではなく、発明は19世紀初頭のドイツ人ヨハン・ボーネンベルガー氏によるものです。主に地球の自転の検出のために使用されていました。
その後、1852年にフランスのレオン・フーコー氏が地球の自転を証明するための実験で使用した振り子装置が「ジャイロスコープ」と呼ばれたため、その名が広まった次第です。
ただし、当時のジャイロは「コマ」を利用した、ということが主な共通項で、実用レベルとなったのは20世紀に入ってからです。
その後、コマ以外の方法も考案されていきました。
そのため原理・仕組みはジャイロの種類によっていくつかに分類されます。
① 回転機械式ジャイロ
まずは、昔ながらの機械力学を使用したものをご紹介します。地球コマ、フライホイールを使用した原始的なジャイロで、理科の教科書などで見た方もいらっしゃるでしょう。
このコマを回転させ、そこに別の軸回りで外部から力を加えます。すると、もともと回転していたコマが傾きますが、そこには慣性力が発生します。
つまり、前述の「姿勢を維持しようとする性質」があるため、加えた力とは垂直方向にコマが移動します。ここでどれくらいの速度でどれくらい傾いたか?という角速度を検出するのです。
かつては飛行機などにも使用されていましたが、現在は主流ではありません。
精度、安定性を向上させるために、コマを大きく重くすると、起動時間がかかってしまい、消費電力も大きくなってしまうことがネックになるためです。
さらに、機械式はパーツの摩耗によって不確かさが増すため、メンテナンスコストもかかってしまいます。
こういった理由から主流から外れてきましたが、原理や仕組みのわかりやすさから、科学玩具などでは非常に高い人気を誇ります。
② 振動式ジャイロ
振動式も機械力学を利用したジャイロとなりますが、コマのような回転ではなく、棒やリングなどを電気的に振動させることによって機能するスタイルです。
現在主流となっているジャイロのうちの一つです。
原理としては、振動する物体に加わるコリオリの力を利用したものとなります。
コリオリの力は慣性力の一種です。
回転運動をしている中で物体を移動させると、移動しようとする物体は横向きに逸れたような動きを見せます。この「横向きに逸らせる」力がコリオリで、台風の渦巻き方向など、地学分野でもよく語られますね。
仕組みはこうです。
振動式ジャイロは固定部(多くの場合が電子回路)、およびシリコンなどで形成された振動子を持ち、振動子のみが本体の外側方向に振動しています。そこにジャイロごと回転を加えることでコリオリ力が働き、振動は垂直方向のものへと変化します。この垂直方向への振動を固定された部分が検出し、角速度を検出する、といったものです。
振動子の素材や構造(音叉型、リング型など)によって異なりますが、電気信号で処理するため精度が非常に高く、信頼性に優れます。ジャイロセンサーが「高性能・高精度」として扱われるようになったのも、振動式の登場が大きいです。
また、回転式はどうしても大型になってしまうため小型電子機器には馴染みません。一方の振動式であれば素材・構造を工夫することによって小型化が容易です。
そのため、半導体に使われるジャイロセンサーは振動式がほとんどとなります。
振動子に使われる素材は水晶やセラミックスといった、圧電(圧力を加えて電荷を出す素子)効果のあるもの。また、シリコンも主流となります。
最もよく見られる振動式ジャイロセンサーは、ICタイプのMEMS(Micro Electro Mechanical System)です。
MEMSとは、センサー、機械要素、電子回路などを一つの基板上に集約させた「微小な電気機械素子」を指します。
今やスマートフォンなどデジタル電子機器にジャイロセンサーは欠かせませんが、より小型化が求められており、その時MEMSのボリュームというのは重宝されます。
なお、MEMS始め、振動式であれば回転軸は1本とは限りません。小型化が求められているため、1つのICで1軸とし、何個も搭載させては不格好になってしまいます。また、ボリュームを抑えられません。
2軸、もしくは3軸における回転の角速度を1つのICで検出する手法が今や主流であり、高度化が進んでいます。
③ 光学式ジャイロ
回転式、振動式と異なり、機械的な構成ではなく「光」という流体を利用したジャイロセンサーとなります。
機械式にありがちなパーツの摩耗や劣化問題に対処するために生まれたスタイルです。
原理としては、サニャック効果を利用したものです。
回転するリング状の光があり、そこにそれぞれ進行方向が異なる2つの光を入射させます。その時に、回転とは反対方向の光は伝播時間が長くなる、というのがサニャック効果です。
この伝播時間差は入射した右回り・左回りそれぞれの光の出口の位相に差を生じさせ、結果として位相の重なりによって明暗ができます。
光の周回速度は不変で、かつ伝播時間差(位相差)はリングの回転の角速度に比例しているため、差を検知することによって角速度を検出。ジャイロセンサーとしての機能を発揮するのです。
光学式ジャイロの中にもいくつか分類がありますが、以下の二つが最も代表的と言えます。
まず、光ファイバージャイロ。
光ファイバーを幾重にも巻き光路を長くしたものに、それぞれの端面からレーザー光を入射し、位相差を検出するものです。
光ファイバーの長さや巻き半径によって性能が決まりますが、光源にはコヒーレンス性(干渉されやすいこと)の低いスーパールミネッセンスダイオードなどを用いることによってノイズを抑制でき、高い精度を誇ります。
また、小型であることも特徴です。
温度変化には敏感ですが、温度制御を行えば安定させることができます。
また、リングレーザージャイロも航空機器においては欠かせない存在で、光ファイバージャイロを凌ぐ高精度が自慢です。
リング状(実機では多角形状)の光の回転をもつレーザー共振器で構成したジャイロとなります。
サニャック効果において、伝播時間差が異なるということは2つの方向の光の発振周波数も異なるということです。なぜならレーザー光などは光の往復を繰り返して光を増幅させているからです。
この周波数差で角速度を求める計測器がリングレーザージャイロに当たります。
非常に高精度・高性能なことから、航空機やスペースシャトルなど姿勢制御用などに用いられてきました。
一方で低速度域においては機械的振動を与えないと動作しないといった問題点もあります。
このように分類はありますが、光学式ジャイロは高精度なこと、そして機械的な装置なしに角速度を測定することができる、というメリットから、振動式と並んで高次の電子機器・航空輸送機器に用いられています。
3. ジャイロの特性
ジャイロの特性を知ると、「高性能」「高精度」と言われている理由がおわかりいただけるでしょう。
もちろん構造や形式などによって違いはありますが、以下に代表的なジャイロの特性をまとめてみました。
① 分解能が高い
分解能とは、対象を測定できる能力のことです。
ジャイロが測定している角速度というのは、本来外部からの衝撃や振動の影響を受けやすいものです。
しかしながらジャイロであればこういった外的刺激の影響を受けず、機器そのものが生じさせた角速度のみを検知することが可能となります。
つまり、前述した「不確かさ」がなく、高い精度を誇ることを意味し、ジャイロが高性能と言われる理由の大きいところを占めるでしょう。
② ノイズレベルの軽減
電子機器において、ノイズは大きな課題です。
高速化や省エネ化、そして電子機器自体が発生する高周波ノイズなどによって発生するノイズは、測定値の誤差や誤作動の原因となります。
しかしながらジャイロセンサーはノイズレベルが低く、安定した測定を可能にしています。
③ 温度変化の影響を受けにくい
気温、および機器自体の温度がセンサーに与える影響は少なくありません。高性能機器となれば、なおさらこの傾向が強くなります。
ジャイロは水晶やセラミックスなど温度係数の低い素子や構造をとることによってこの弱点を克服しています。
④ 何かと安定性がある
ノイズ・温度変化に強いということは、安定性が高いということです。
この二点のみならず、周波数やダイナミックレンジ(最小値と最大値の間にある開き)が少ないことも、より機器の安定化に一役買っています。
4. 拡大が止まらないジャイロの用途
現在、私たちの身の回りのありとあらゆる機器にはジャイロが活用されている、と言っても過言ではありません。
ここに身近な一例をご紹介いたします。
まずは、スマートフォン。スマートフォンはセンサーの宝庫です。
中でもジャイロを使うことで、より高感度の検知・検出を実現しており、電話とは思えないエンターテインメントを提供しています。
文中でご紹介したカメラ機能の手ブレ補正や、また、機器をある程度傾けると画面も一緒に横向きになる機能もジャイロセンサーを利用したものです。
さらに、ゲーム機能でも使用されており、レーシングゲームなどで機器を傾けると、それに連動してゲーム内でもキャラクターを傾かせたり移動させたりすることができます。
なお、一世を風靡した位置情報を利用してモンスターを集めるスマホアプリゲームでは、ジャイロが搭載されている機種でのみAR機能が利用できました。
AR機能とはAugmented Realityの略で、直訳すると拡張現実となります。
実際に今いる風景とゲーム内の世界を重ねて表示するもので、ゲームを現実に拡張する、といった意味になります。
このアプリでは搭載したジャイロが角速度を検出し、カメラがキャッチした背景とゲームの世界を合成する仕組みになっています。
また、自動車の便利な機能もジャイロによって実現されてきました。
例えばカーナビゲーション。いわゆるカーナビです。
GPSやインターネット回線を使って現在位置を割り出し、ナビゲーションする機能、といった理解が広まっていますが、トンネルや山奥など、電波が届かない場所ではこういった割り出しはできなくなります。
そこでジャイロを搭載することによって、移動距離やどの方向に進んだのかを検知し、その距離も検出。電波が届かなくても、正確な位置の割り出しができるのです。
また、横滑りを検知し、それを制御する横滑り防止装置や、横転検知でエアバックを作動させることにも利用されています。
その他では、船や飛行機、スペースシャトルなど、移動時に地球の自転によって軌道がズレてしまう航空輸送において、そのズレを制御する。
また、ロボットやドローンを安定させる姿勢制御などにおいても大きな役割を担います。
5. ジャイロセンサの種類
船やスペースシャトルなどと聞くと壮大なような気がしますが、ジャイロは様々な電子機器に使われており、私たちにとって身近です。
価格も、近年ではかなりリーズナブルになってまいりました。
そこで、ジャイロを実際に購入する時に、注意するべきポイントをご紹介いたします。
なお、民間で使用されるジャイロの多くは振動式となります。
① 角速度の検出範囲
「どれくらいのブレ・動きを検出してくれるのか?」を知るために、dpsで示された値を見てみましょう。
この値が大きければ大きいほど、大きな動きを検出し、小さいほど微小な動きを検知してくれます。
例えば、ゲーム端末を大きく振ることでキャラクターにアクションを起こさせたいのであればdpsは大きくなります。
手ブレ補正など小さな動きであればdpsは低いものを選択します。
ジャイロは検出範囲を切り替えることのできる機能が搭載されているものがほとんどですので、その場合は「範囲:±100dps~±500dps」や「範囲:最大±2000dps」などといった表記を確認してみてください。
② 消費電力
ジャイロが動作をしている時、どれくらいの電力を消費するかは機種によって異なります。
また、「常時オン」モードなのか、間欠的に動作させるのかなど使い方は人によって違うでしょう。
ノーマルモード、スリープモード、パワーダウンモード時の消費電力をチェックしましょう。
現在では、ノーマルでも低消費電力の製品がラインナップされています。
なお、スペックの中に「出力データレート」というものがありますが、これは検出がどれくらいの頻度で更新されるかを表したものです。
通常、データレートが速いと消費電力は大きく、遅いと小さくなります。
ただ、このレートは遅くて省エネが良い、というわけではなく、用途によって適切な値があります。
多くの場合で調整可能なので、用途に合った出力データレートを設定しましょう。
③ 温度変化
ジャイロは比較的温度変化に耐性のあるセンサーですが、これも機種によって異なり、安定性が変わってきます。
これを判断するには「0点温度特性」と「感度温度特性」を確認してください。
前者は検出値が温度によってどの程度変動するかを表したもので、25℃が標準値となります。高いと温度変化は高く、低いと温度変化は低い、つまり安定している、ということになります。
「感度温度特性」は検出値が温度によってどう変化するかを表したもので、やはり低いほど安定性は高くなります。
④ 非線形性
いわゆる誤差です。
検出値を直線で近似した値と実際の検出値を比較した時に出る差異で、低いほど誤差は少なくなります。
⑤ ノイズ密度
ノイズは機器の誤作動の大きな要因となります。
ノイズ密度が低いほど高い安定性を意味します。
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