蛍光灯やブラックライト、UVBランプが光るためには、エミッタの存在が欠かせません。
エミッタと聞くと、トランジスタの端子の方を思い浮かべる方が多いでしょうが、語源は同じ。どちらも「電子の放出」を意味しています。
ただ、トランジスタのエミッタは電流を流すために電子を放出するのに対し、今回ご紹介するエミッタは、様々な光を照射するために用います。
しかしながらエミッタ自体に光る能力はありません。では、エミッタは蛍光灯などにおいて、どのような役割を果たしているのでしょうか。
この記事では、そんなエミッタの原理・仕組みや役割、特性について解説いたします。
目次
1. エミッタとは?
エミッタは英語でemitter、あるいはemissive materialと呼びます。
直訳すると「電子の放出物質」。日本語でもそのまま使われたり、あるいは「電子源」などと呼ばれたりすることもあります。
このエミッタはバリウムなどの第2族元素の酸化物を主成分としており(ランプの種別によっては第3族元素が使われることも)、エミッタ自体に光る力はありません。
ただ、電極にエミッタを塗布(あるいは含有したり、沈着させたりすることも)することで電子の放出を促し、結果として発光するに足るだけのエネルギーを与えることが可能です。
詳しく解説いたします。
① 蛍光灯の構造
エミッタを用いた照射器は種々存在しますが、最もわかりやすい蛍光灯で解説いたします。
蛍光灯はまずガラス管を用意します。
そしてそのガラス管内部に蛍光体を塗り、さらにガラス管の両端に取り付けられた電極、口金とで構成されます。
そして管内にはアルゴンなどの希ガス、水銀が一緒に封入されています。
これらはごく微量で、希ガスが数1000Pa(パスカル)、水銀が数Pa程度です。
ガラス管の両端に取り付けられた電極はフィラメントと呼ばれます。
今では廃止されつつある白熱電球などにも用いられるフィラメントは細い金属線(タングステンが使われることが一般的)をコイル状にして形成されていますね。
このフィラメントに電流が流れると電気抵抗が発生し、どんどん熱を持つようになります。
その温度は、2,000~3,000℃までの高温に。ちなみにタングステンは熱に強く電気抵抗が大きいことが特徴です。
そのためこういった高熱にも耐えられるとあり、色々なランプに使われてきました。
白熱電球ではフィラメントが高温になることで結果として熱放射が行われ、独特の温かみのある光を発光させる、という仕組みです。
ただ、白熱電球は前述の通り今では廃止の動きが出ています。
高温でフィラメントが劣化してしまったり、熱放射にエネルギーが使われてしまって電力消費が大きかったりと、効率があまり良くないためです。
そこで照明機器を始め、蛍光灯への転換が求められるようになりました。
この蛍光灯は、フィラメントにエミッタを塗布することで高い発光効率を実現するだけでなく、フィラメントの劣化を抑え長寿命にも貢献することとなったのです。
② 蛍光灯の原理と仕組み、エミッタの役割
蛍光灯のガラス管の両端にはフィラメントが取り付けられ、それぞれ陽極・陰極を形成します。
エミッタは、この陰極側に塗布することとなります。
二つのフィラメントに電圧印加すると、フィラメントとともにエミッタもまた熱せられます。
ここでエミッタは、熱せられると大量の熱電子を放出する特性を持つことがミソ。
ガラス管内に豊富に生まれた電子は陽極側のフィラメントの方に引き寄せられ、移動していきます。
つまり放電が行われている、というわけです。
このエミッタから出た電子はガラス管内の水銀原子とぶつかり合います。いわゆるプラズマですね。
水銀はプラズマが起きると紫外線を発します。なぜなら多くの原子は熱と一緒に電磁波を発生させるためです。
この紫外線自体は目に見えないのですが、紫外線がガラス管内に塗布された蛍光体を照射することで外側に可視光を発し、結果として照明器具になる、というわけです。
なお、蛍光体の種類や混合割合を変えることによって温かみのある白、ハッキリとしたオレンジ色など、様々なカラーリングを実現しています。
このエミッタがないと、電子が足りなかったり、エネルギーがなかったりして高い発光効率を示せません。
また、必要以上にフィラメントを熱する必要がないため、白熱電球に比べて劣化を抑えることが可能です。
しかしながらエミッタだけでは逆にエネルギーが強すぎるため、水銀とプラズマを発生させることで和らげる過程が必要となります。
③ エミッタが使われている機器や用途
エミッタは様々な分野に応用されています。
蛍光灯は言わずもがなですが、ブラックライト,UVBランプなどに代表される紫外線ランプもこれと同じ仕組みです。
ただ、紫外線は用途によって必要とする波長が異なります。
一般的に電磁波は波長が短いほどエネルギーが強くなりますが、医療用途や産業用途、研究用途などで必要とするものは異なりますね。
そこで紫外線ランプにおいては、封入する水銀の圧を変えたり、蛍光体を塗布したりすることで(本来純粋に紫外線が欲しければ、蛍光体は必要ない)任意の波長を得ています。
ランプ以外では、電子銃や熱電子銃などにも用いられます。
電子銃は文字通り電子をビーム状に照射させる器具ですが、その出力口はタングステンで構成されており、エミッタが塗布されています。
リーズナブルに安定した電子を得やすいため、ブラウン管から電子顕微鏡までと、幅広い分野で使われてきました。
2. エミッタおよびエミッタを使った照明器具の特性
次に、エミッタの特性について解説いたします。
① 定格寿命がある
エミッタを用いることで白熱電球に比べて数倍の長寿命を獲得することとなりました。
白熱電球の発光時間が1,000~2,000時間であったことに対し、蛍光灯であれば6,000~12,000時間。
とは言えエミッタには寿命があります。長時間熱電子を繰り返し放出することで消耗していき、やがて全く機能しなくなってしまうのです。
特にエネルギーを使うのが始動時(スイッチをオンにした時)で、頻繁にオンオフを繰り返すような場所ではさらに寿命が短くなってしまいます。
蛍光灯は安定するまで20分程度かかると言われているため、それ以下の点滅を繰り返すことはエミッタに大きな損傷を与えるとも言われます。
よく蛍光灯が切れそうになるとチカチカしたり、両端だけ光ったりすることがありますが、これはエミッタが機能を果たさず、十分な電子放出を行っていないために起きてくる現象です。
ただし、エミッタが劣化したとしても、消費電力は大きく変わりません。
蛍光灯自体がガラスの経年劣化などと無縁ではないため、定期的に変更しなくてはならないでしょう。
ちなみに製品によって定格寿命は異なりますが、一般的には照明維持率が初期値の70%以下に低下した時が替え時となります。
近年ではLEDや、エミッタフリーの照明器具も出回るようになってきました。
特にLEDは省エネ力や小型軽量化の容易さはとても便利で、今後の照明の主流となることは間違いないでしょう。
② 外観に影響する特性
エミッタを用いた蛍光灯などの照明器具には、外観自体に変化を来す特性があります。
■アノードスポットとエンバンド
まず、アノードスポットと呼ばれるもの。これが起きたら寿命レベルは末期です。
エミッタが飛散してしまい、電極付近のガラス管に付着してしまったような状態を指します。
こうなるとエミッタが付着した箇所が外側から見て黒くなってしまい、ここをアノードスポットと呼んでいます。
ただ、蛍光灯によっては飛散を防ぐためにフィラメント周囲に保護フィルタが取り付けられることがあります。
なお、管端からガラス管中央にかけて帯状に黒っぽくなるエンバンドと呼ばれる現象もありますが、これはエミッタが蒸発し、管内のガスと水銀が化合したことで起こるものです。
寿命の兆候ではなく、明るさを損ねることもほとんどありません。
■内面導電性被膜(EC黒化・黄変)
これはラピッドスタート型と呼ばれる蛍光灯で見られる現象です。エミッタは直接関係ありません。
蛍光灯にはいくつかの始動方式がありますが、ラピッドスタート型では安定期を用いることで点灯にかかる時間を短縮しました。
この始動補助のために管内に内面導電性被膜(EC被膜)を施していますが、それが水銀と反応して微量ながら放電が起こり、蛍光体が変色してしまう現象を指します。
また、黄変とは内面導電性被膜と蛍光体が反応することで起きるもので、やはりその部分が変色してしまいます。
いずれもエミッタそのものではなく、使用環境が影響しているケースが多くなります。空調などの風がランプに当たって冷やされることで起きていると考えられます。
なお、ラピッドスタート型に限らず、同じようにガラス管が低温になったことで中央部分に水銀が付着し、黒っぽくなる現象も見ることがあります。これは、水銀が低温部分に集まりやすい特性があるためです。
いずれも使用環境を変えることで改善が可能です。
■電極付近の水銀付着
こちらも直接エミッタは関係ありませんが、長時間点灯せずにいた蛍光灯をオンにした時、フィラメント内部に入り込んでしまっている水銀が加熱されて蒸発し、ガラス管壁に付着してしまった黒ずみです。
ただ、一定時間点灯しておけばランプ自体が温まり、水銀は蒸発するので解消されます。
明るさや寿命にはほとんど影響しません。
③ 周囲温度
周囲温度が高いと熱によって放電するランプは電流が増加し、フィラメントの劣化を招きます。
逆に低温になるとなかなか始動しなかったり、水銀蒸気圧が変かして紫外線の発生効率が変わったり、前述のように水銀が一か所に固着してしまったりします。
いずれの場合も、エミッタにとってあまり良い環境とは言えません。
そのため製品に合わせた推奨使用環境をよく確認するようにしましょう。
一般的な蛍光灯であれば、20~25℃の温度条件下で最も高いパフォーマンスを発揮するよう設計されています。
④ 電源電圧
電源電圧が高いと電流が増大し、その分明るく周りを照らします。一方でフィラメントや取り付けられた安定器などに負担がかかり、劣化を招く場合があります。
電源電圧が低いと始動に時間がかかってしまい、エミッタにも負担がかかるのであまり良くありません。
推奨使用範囲を守ってお使いください。
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