1833年にサーミスタは、かの有名なマイケル・ファラデーによって基本原理が発見され、1930年代から市販化されました。
それだけ歴史ある温度センサであるにもかかわらず、その性能の良さや汎用性の高さ・抜群のコストパフォーマンスから、今なお幅広い産業において欠かせない存在です。
エアコンやコーヒーメーカーといった身の回りの家電。パソコンやスマートフォンなどの精密機器。自動車。医療機器から宇宙開発までと、その例は枚挙にいとまがありません。
そんなサーミスタは、いったいどのような温度センサなのでしょうか。温度の基準としてよく用いられる金属抵抗体温度計などとは、何が異なるのでしょうか。
この記事では、サーミスタの概要と原理・仕組み、その用途や使い方を解説いたします。
目次
1. サーミスタとは?
サーミスタはThermal Sensitive Resistor「熱に敏感な抵抗体」から派生した用語です。
もともとは温度変化によって電気抵抗値を変化させる抵抗体を指しました。
ここから転じて現在は、この抵抗体を被測定体に接触させ、生じた電気抵抗の変位差を検知のうえ温度測定を行う温度センサをサーミスタと呼んでいます。
同じように温度による電気抵抗の変化を利用した温度センサに、工業用途で用いられる金属抵抗体温度計が挙げられます。
特に白金を使ったものが有名ですね。
しかしながらサーミスタは、金属酸化物半導体を抵抗体として用いたセンサとなります。
冒頭でも述べたように、マイケル・ファラデーが硫化銀半導体の抵抗が温度変化によって急激に減少することを発見し、後にサミュエル・ルーベンによって市販化が実現されました。
白金に比べて安価であるため、私たちの生活のあらゆる電子機器やデバイスに用いられます。
また、感度が良く、加えて高い精度を誇るため、耐久性,信頼性,安定性が重要視される温度測定でもよく活躍してきました。
さらにはサーミスタに限った話ではありませんが、半導体は金属などの導体と比べ、加工が容易なため小型軽量化しやすいという長所もあります。
かつ高速なことから、小径精密機器などでも重宝されています。
用途・使い方は後述しますが、電気抵抗変化を利用するという性質上、体温計やエアコンなどの温度検知、電気ポットやアイロン・スマートフォンなどの過熱防止といった温度制御装置としてのみならず、保護回路などの電流制御用としても用いられています。
なお、-50℃~150℃程度までの測定に適した温度センサと言われていますが、その汎用性の高さから様々な製品が開発されており、特殊コーティングを施し300℃まで使用できるサーミスタなどもラインナップされています。
ただし、あらゆるサーミスタの抵抗値に対する温度特性は非線形なため、広範囲な温度測定には向きません。
2. NTCサーミスタとは?
サーミスタは抵抗値の変化の仕方によって三種に分類することができますが、最もよく使われており、「サーミスタ」と言えばコレ!に当たるものがNTCサーミスタとなります。
① 原理・仕組み
NTCとはnegative temperature coefficient「負の温度係数」の頭文字をとったサーミスタです。
原理は前項で解説したように温度変化によって変わる抵抗値の変化量から被測定体の温度を知る、というものですが、「負」とつくように温度の上昇とともに電気抵抗が減少することが大きな特徴です。
ニッケル、マンガン、コバルト、鉄などの酸化物を混合し、焼結したセラミックス半導体(金属酸化物焼結体)をセンサとして用います。
ちなみにドーピングされる物質によって、n型半導体・p型半導体どちらかが形成されるか決まります。
通常、半導体は外部から何の刺激も与えていない(光を当てる、電圧を印加するなどをしていない)状態だと、電子の移動が起こらず電流はほとんど流れない状態です。
つまり抵抗値が高い、ということですね。
NTCサーミスタは、金属酸化物半導体が温度を上げることで自由電子や正孔が移動し、結果として電流を流すため抵抗値が小さくなったとみなされます。
② 特性
NTCサーミスタの抵抗温度係数は1℃あたり3~5%の減少率となります。
白金など金属は1℃あたり0.数%ほどしか抵抗値が変化しないことを鑑みると、NTCサーミスタであれば小さな温度変化であっても大きな抵抗の変化を見せるということがわかりますね。
こういった特性から、微小な温度差を敏感に感知できる高精度温度センサであると言えます。
また、抵抗体に比較的安価な材料を用いているため、量産が可能で低コストなこともNTCサーミスタを特徴づけます。
使用温度範囲は-50℃~500℃と幅広く、日用品から産業用途まであらゆる電子機器で温度センサとしての役割を担っています。
なお、リードタイプ、チップタイプなどが一般的にラインナップされています。
③ 用途
NTCサーミスタはその高感度性から、電子体温計や自動車の吸気・廃棄温度感知器、エアコンの室内外機などの温度検出用センサとして。
また、スマートフォンなどのモバイル機器や液晶ディスプレイなどの過熱を検知し、電圧をコントロールする温度補償として用いられています。
3. PTCサーミスタとは?
NTCサーミスタの次によく用いられるのがPTCサーミスタです。
① 原理・仕組み
PTCとはpositive temperature coefficient「正の温度係数」を意味しており、ある温度を超えると、温度の上昇に伴って抵抗値が急激に大きくなるサーミスタを指します。
ポジスタの名前でも親しまれてきました。
チタン酸バリウムを主成分に、微量の希土類元素(きどるいげんそ。レアアースのこと)を混合した多結晶セラミックスを抵抗体として用いています。
チタン酸バリウムは強磁電体という特徴を持ち、その誘電率は温度によって変化する、という特性があります。
「ある温度を超えると」と表現しましたが、この温度はキュリー点です。
キュリー点とは強磁性体の性質が失われる温度でしたね。
つまり、キュリー点以下の時は高い誘電率によって電子がスムーズに移動して電流が流れる、つまり低い抵抗値を示します。
しかしながらひとたびキュリー点を超えてしまうと物質は 磁力を失い、誘電率が著しく落ち、電流が流れなくなります。
抵抗値が大きくなってしまう、というわけですね。
このキュリー点は物質によって温度が異なりますが、一般的な使用範囲は-50℃~150℃程度となります。
② 特性
PTCサーミスタの特性は、まず前述のようにキュリー点を超えることで磁力を失い、抵抗を急激に増大させること。
また、抵抗を増大させたPTCサーミスタは、電流を流すとジュール熱が発生し、自己発熱を起こします。
つまり、電圧を一定に印加し続ければ、一定時間が経過するとともに流れる電流が減少し、結果として任意の温度を保ってくれる発熱体の役割も果たすということを意味します。
ただしこの特性はサーミスタを設置した回路内の周囲温度よりもサーミスタ自身が発熱してしまったり、周辺回路に影響を与えてしまったりする可能性も示唆しています。
そのためPTCサーミスタには、高性能のセラミック素子を使うことが重要です。
精度の高いセラミックスを使用することで、一定の温度を超えれば抵抗を持ち、自己で温度制御することができます。
なお、この素子にはポリマーにカーボンブラックやニッケルなどの導電性粒子を混合した材料も使われることがありますが、これらは「ポリスイッチ」「セミフューズ」などと呼ばれ、セラミックスのPTCとは区別する傾向にあります。
また、自己発熱の特性上、ラインナップされているPTCの多くがある程度の大電力下でも使用できるよう設計されています。
そのため、大電流下における電流制御素子としても用いられてきました。
なお、リードタイプ、チップタイプなどが一般的にラインナップされています。
4 用途
NTCサーミスタ同様、抵抗値の変化から温度検知したり過熱を防止したりするセンサとしても用いられていますが、「自己発熱」というPTCサーミスタならではの特性から、ヒーターなどの加熱素子としても利用されます。
自己温度制御機能を持っているので、特別な制御回路がなくとも、きちんと使用条件を守っていれば安全に運用できるのが便利なポイントです。
この自己制御は温度が上昇すれば抵抗が増大して発熱量を減らしてくれるため、無駄な消費電力を削減する省エネにも繋がりますね。
また、大電流下での使用が可能なため、パワートランジスタやモータなどの加熱検知および抵抗体としてヒューズなどの保護回路の役割を担うこともあります。
回路内で何らかの事象により過電流が流れた場合でも、PTCサーミスタを接続することで周辺回路を保護してくれます。
さらに、一定時間電圧を印加し続けると抵抗が増え流れる電流が減少する、とお話しましたが、この特性によってモータの起動や、スイッチング素子などの用途でも活躍しています。
4. CTRサーミスタとは?
三種類目の、CTRサーミスタについてご紹介いたします。
CTRはcritical temperature resistorの略で、直訳すると「著しく大きい温度係数」となります。
新しいタイプのサーミスタで、負の温度係数を持つところはNTCと同様ですが、PTCのようにある温度範囲を超えると急激に抵抗値が減少するという特性を持ちます。
このある温度とはキュリー点を指します。
バナジウムなどの酸化物に他素材を添加し焼結して調整した抵抗体を用いています。
NTC・PTCサーミスタほど一般的ではありませんが、用途は常温域が多く、エアコンや冷蔵庫といった家電はもちろん、自動販売機などの温度計測での使用が見られます。
5. サーミスタの使い方
ここまでご紹介してきたように、サーミスタはあらゆる電子機器の、様々な用途で活躍しています。
そのためひとくちに「使い方」と言っても多岐にわたるのですが、ご自身が「どのように実装するか」「どのような条件下(温度範囲)で使うか」をまずご確認ください。
① サーミスタの実装
回路内にオンボード実装する時は、小型チップ形状のものが用いられます。
この場合、回路構成もまた多種多様なのですが、最も一般的なものは他の固定抵抗と一緒に組み込むものです。
サーミスタは抵抗値を利用したセンサですが、温度変化による抵抗値の変化によって測定を行います。そのため他の抵抗を用いることで電圧を分圧し、サーミスタはサーミスタの出力電圧を測定できるようにしなくてはなりません。
また、正確性を期するために、複数のサーミスタを接続することもあります。
用途に合わせて、正しい実装を行いましょう。それには、次項で解説する、「正しいサーミスタの選び方」も重要になってきます。
② サーミスタの選び方
サーミスタの使い方も重要ですが、どのサーミスタを選ぶかも大切ですね。
最も大切なことは、使用する温度範囲を確認することです。
サーミスタは種類や製品によって最適な温度範囲があります。
その範囲内から外れた測定は、正確性が損なわれる可能性があります。
被計測体と、サーミスタの仕様書で使用温度範囲を確認し、ベストのものを選定しましょう。
また、仕様書の確認事項についてもご説明いたします。
まず、B定数と抵抗値が記載されているかと思います。
B定数とは温度変化に対するサーミスタの感度を示しており、大きいほど感度が良い、つまり分解能が高くなります。
このB定数が大きいと抵抗値も大きくなり、温度変化に対して高い感度を示すということです。
さらに熱放散定数と言う項目があります。これはサーミスタの自己発熱で1℃温度が上昇したときに必要な電力数で、大きいほど測定結果の誤差が出やすいことを表します。
こういった性能面で高いものほど優れたサーミスタと言えますが、えてしてそういった製品は高額になります。
回路設計においてコストを考えることは大変重要です。
ご自身の予算と相談して、実際の回路で問題ない程度のスペックの製品を見極めましょう。
なお、こういった使用温度範囲およびスペックの他、実装方法や被測定体が気体なのか液体なのか個体なのかによって形状や必要とされるスペックが変わってきます。
現在はメーカーがお勧めの用途によってシリーズ展開を行っている場合もあるので、ぜひチェックしてみてください。