過去に手持ちのデジタルカメラで撮影した画像データを見ていると、その時の記憶や思い出がありありと記憶に蘇るものです。 これは、ひとえに現在のデジタルカメラの高画質によるところが大きいでしょう。
それを支えるのがイメージセンサです
イメージセンサとは、いわばデジタルカメラの心臓部。
近年では性能の向上や小型軽量化がますます進み、スマートフォンやミラーレス式カメラなどに搭載されるようにもなりました。
高額なカメラを買わずとも、気軽にカメラライフを楽しめますね。
この記事では、そんなカメラの高画質を支えるイメージセンサについて、どのようなものか、仕組みや構造を徹底解説いたします!

目次
1. イメージセンサとは?
イメージセンサとは、デジタルカメラやスマートフォンのカメラ機能で使われる半導体センサです。
カメラのレンズから入射した光を電気信号に変換し、データ転送を行う、という原理となります。
画像を撮影するための撮影素子に使われるもので、いわばカメラの心臓部。
出来上がりの写真の画質を大きく左右しており、現代のカメラの性能向上はイメージセンサが担うところは少なくありません。
開発は1969年のことです。
情報通信・メディア産業の大手コングロマリット「AT&T」の前身であるThe American Telephone & Telegraph Companyの、ベル研究所の職員であったウィラード・ボイル氏とジョージ・E・スミス氏によって発明されました。
ちなみに1948年のトランジスタの発明者も同研究所から輩出されています。
両氏はこの発明によって2009年にノーベル物理学賞を受賞しており、「光のマイスター」とも称されました。
ちなみにこの機構を撮影素子として活用する、というアイデアは世界各国で採用され、研究が進みましたが、最終的に初めて白黒カメラとして市販化に成功させたのは現在の世界的電機メーカーであるパナソニック【Panasonic】社です。
1979年のことでした。その後大手電子部品メーカーのソニー【Sony】社がカラーカメラで市販化させ、大量生産も促進。
1990年には、市販されるほとんどのカメラに搭載されることとなりました。
冒頭でも述べましたが、改良や製造数の向上が飛躍的に進み、カメラを「運動会や旅行といったハレの日の思い出を記録するもの」から「日用品」へと昇華させました。
インスタグラムやフェイスブックといったSNSも、あるいはイメージセンサがなければここまで発展はしなかったでしょう。
次項で仕組みについて詳しく解説いたします。
2.イメージセンサの仕組み
イメージセンサは光センサのうちの一つで、光の強度だけを検出・電気信号に変換する光量センサとなります。
撮影プロセスは受光⇒電荷蓄積⇒電荷転送⇒電荷検出が基本です。
この受光・電荷蓄積を担うのがpn接合フォトダイオードです。
イメージセンサにはこのフォトダイオードがセル状に規則正しく並んでおり、それぞれがレンズから入射した光を受光・電気信号に変換させます。
フォトダイオードの他に、イメージセンサにもう一つ欠かせない素子があります。
電荷転送・電荷検出を行う、CCDまたはCMOSという半導体(MOS)です。
他の素子や方式が採用されることもありますが、現在の主流はこのCCDかCMOSとなります。
CCDまたはCMOSをどう使うかによって、画質の高さはかなり異なります。
また、この素子が大きい方が光を集めやすく電気信号に変換しやすいため、精密な色合いといった情報がより細やかとなり、結果として画質が高くなります。
それぞれについてご紹介いたします。
① pn接合フォトダイオードとは
ダイオードと聞くとLEDなどが思い浮かぶかもしれませんが、フォトダイオードはその逆。光を発するのではなく、光を受け取って作用する半導体です。
どうイメージセンサ内で作用するのかご説明いたします。
フォトダイオードに光が入射すると、p型とn型の接合部のところに電子と正孔のペアが発生します。
この電子の方はn型半導体へと移動し、正孔の方はp型半導体に向かいます。
この状態のダイオードの両極を繋ぐと電流が流れる、という仕組みです。
電流の量は光の量に応じます。
これによって電荷が蓄積され、次のプロセスへの動力となります。
② CCDとは
先ほど「光のマイスター」としてご紹介したウィラード・ボイル氏とジョージ・E・スミス氏が発明したのが、このCCD式です。
Charge Coupled Deviceの略称で、その名の通り実装するコンデンサにフォトダイオードから流された電荷(信号)を蓄積し、その電荷を隣り合った素子(MOSキャパシタ)に一列ずつリレーのように順番に渡していくスタイルです。
搭載される全てのダイオードから送られた素子は、それぞれのコンデンサが受け取り、順次転送していきます。
そのため、信号転送方式とも呼ばれます。
信号はそれぞれで送られてきますが、最終的には一本通された水平伝送路を通り、さらに増幅器を通って所望の電圧に変換・増幅された後、カメラに撮影したデータとして処理されます。
その画質の良さからデジタル一眼レフカメラと言った、高級機に主に採用されてきました。
なお、CCDはデジタルカメラの専用撮影素子として扱われることがありますが、実際はビデオカメラやファクシミリなど、幅広い分野で活躍しています。
③ CMOSとは
CMOSとは、Complementary Metal Oxide Semiconductorの略で、相補性金属酸化膜半導体という意味です。
新世代のトランジスタとして、集積回路やLSIなど現在多くの電子回路で採用されつつある半導体の一種です。
p型のMOS FET(電界効果トランジスタ)とn型のMOS FET両方が採用されたハイブリッド型で、セルごとにMOS FETが設置されており、低ノイズで電荷の増幅・スイッチングによる信号転送をそれぞれで行えるということが何よりの特徴です。
アドレス式とも呼びます。
セルは行で分かれており、それぞれ行ごとに垂直信号線に転送・走査。
さらに行ごとのスイッチング素子により水平信号線へ転送された後、カメラに撮影したデータとして処理されます。
3.イメージセンサの種類とメリット・デメリット
それぞれのイメージセンサの種類についてメリットとデメリットについて解説いたします。
①CCDセンサ
CCDセンサは前述の通り、光を電気信号に変換してその信号をシリアルに転送する仕組みを持っており、高画質でノイズが少ない画像を得ることができます。
以下にCCDセンサの種類について記載します。
- フレーム転送型CCD(Frame Transfer CCD) :
- フレーム全体を一度に転送する方式。高速な撮影が可能ですが、コストが高くなります。
- インターライン転送型CCD(Interline Transfer CCD) :
- 行ごとに転送する方式。垂直解像度が高く、広く使われています。
- フルフレーム転送型CCD(Full Frame Transfer CCD) :
- フルフレームで電荷を転送する方式。高感度でノイズが少ないですが、読み出し速度が遅くなります。
次に、CCDセンサのメリット・デメリットについて記載します。
【メリット】
- 高画質:非常に高い解像度と色再現性を持ちます。
- 高感度:光の少ない環境でも優れた性能を発揮します。
- 低ノイズ:ノイズが少ないため、クリアな画像を得ることができます。
【デメリット】
- 高コスト:製造コストが高く、カメラ全体の価格に影響します。
- 消費電力が大きい:多くの電力を消費します。
- 処理速度が遅い:データ転送がシリアルで行われるため、処理速度が遅くなります。
このようなメリット・デメリットがあるため、アプリケーション毎に使い分けて使用されます。
②CMOSセンサ
CMOSセンサは、集積回路やLSIで広く使われている半導体の一種で、光を電気信号に変換します。
各セルにMOS FETが設置されており、並列にデータを転送するため、高速な処理が可能です。
以下にCMOSセンサの種類について記載します。
- 表面照射型CMOS(Front-illuminated CMOS):
- 従来型のCMOSセンサで、構造が単純でコストが低いですが、受光効率が劣ります。
- 裏面照射型CMOS(Back-illuminated CMOS) :
- セルの裏面にフォトダイオードを設置し、受光効率を高めた構造。高感度でノイズが少ないです。
次にCMOSセンサのメリット・デメリットについて記載します。
【メリット】
- 高速処理:並列転送による高速なデータ処理が可能です。
- 低コスト:製造コストが低く、大量生産が容易です。
- 低消費電力:消費電力が少ないため、バッテリー寿命が延びます。
- スミア現象が少ない:強い光を受けても白飛びが起こりにくいです。
【デメリット】
このようにメリット・デメリットが存在しますが、最近のCMOSイメージセンサの改良には目覚ましいものがあります。
構造の工夫によって、ノイズ発生量が減少したり、受光感度が向上したりして、画質の高さはもちろん、光があまりない場所でもキレイな写真が撮りやすくなった、と言われてきました。
メーカーによっては高価なCCD搭載カメラとの性能の違いはごくわずか、といったものまであるほどで、CMOSの方が高いシェアを誇ります。 このCMOSイメージセンサのアップデートの一例として、大手電子部品メーカーのS社の裏面照射型CMOSを挙げます。
従来のCMOSイメージセンサの構造はやや複雑です。
セルがそれぞれ存在し、それぞれで電荷蓄積⇒増幅⇒電荷転送といったプロセスを踏まなくてはならないためです。複雑な構造は光の入射を妨げる大きな要因となります。
そこでソニー社は回路の基板(ウェハー)に着目しました。
ウェハーの裏面にフォトダイオードを設置し、裏面全体を使って受光に充てる、とした仕様です。「そんなことできるの?」と思います。
非常に難易度の高い製造方法です。
ウェハーは通常、裏側は加工できません。
そのため別の基板をウェハーに貼り付け、そこを起点として受光のために使う、という発想を行ったのです。
アイデアがあっても、厚みが出てしまったり不均一になったりしては本末転倒です。そこを克服し、市販化に成功したのだから、さすがイメージセンサの黎明期から開発研究してきたS社だけありますね。
ちなみにスマートフォンにイメージセンサを搭載させたのもソニー社であり、ソニー社子会社の通信機器メーカーでは、携帯電話としては驚くべきような画素数のイメージセンサを新作スマートフォンに順次採用しています。
また、性能の良さは画質の高さに留まりません。
様々な付加機能が搭載されており、例えばイメージセンサにメモリを搭載することでデータ読み出し速度を5倍まで高めたり、 インカメラにまで高画素数を採用したり、 1秒間に1000フレームなどといった超高速なハイビジョン画像の撮影が可能になったりと、 より使って楽しいデバイスへ年々進化が繰り返されています。
③CCDセンサとCMOSセンサの比較表
以下にCCDセンサとCMOSセンサの代表的な特徴を比較した表を示します。
センサ名 |
CCDセンサ |
CMOSセンサ |
---|---|---|
画質 |
高い |
良い(最近はCCDに匹敵するレベル) |
感度 |
高い |
改良により高くなっている |
ノイズ |
少ない |
最近はノイズも少なくなっている |
消費電力 |
高い |
低い |
コスト |
高い |
低い |
処理速度 |
遅い |
速い |
スミア現象(白飛び) |
起こりやすい |
起こりにくい |
データ転送方式 |
シリアル転送 |
並列転送 |
動いている物体の撮影 |
歪みが少ない |
フォーカルプレーン歪みが発生しやすい |
高速フレームレート撮影 |
不向き |
向いている |
光の少ない場所での撮影 |
得意 |
改良により得意 |
動作温度範囲 |
広い |
狭い |
アプリケーション例 |
高級デジタル一眼レフカメラ、ビデオカメラ、天文学機器 |
スマートフォン、監視カメラ、車載カメラ |
CCDセンサとCMOSセンサは、それぞれ異なる特性を持っています。
CCDセンサは高画質と高感度が求められる場面で優れた性能を発揮し、主に高級デジタル一眼レフカメラや天文学機器で使用されています。
一方、CMOSセンサは高速なデータ処理と低コストが求められる場面で活躍し、スマートフォンや監視カメラなど、幅広い用途に対応しています。
最新の技術進歩により、CMOSセンサの性能が向上し、CCDセンサとの違いはますます縮まっています。
これにより、カメラ市場ではCMOSセンサが主流となりつつあります。今後も両者の技術革新から目が離せません。
4. 重要用語まとめCheck It!
素敵な思い出を、見た風景ありのままの画質で残せる。そんな嬉しいカメラ機能を下支えしてきた、イメージセンサについて解説いたしました。
イメージセンサの復習を兼ねて、以下のクイズにチャレンジしてみましょう!答えは一番下に掲載しております。
問題
- イメージセンサの原理を簡単に教えてください
- イメージセンサに使われる受光素子となる半導体とは?
- 低ノイズで高速なイメージセンサに使われる、電荷転送・電荷検出を行う半導体とは?
- CMOSイメージセンサの弱点を一つ教えてください
- ウェハーの裏面に別の基板貼り付け、そこにフォトダイオードを設置し、裏面全体を受光に使う機構を何と言う?
答えはこちら!
- カメラのレンズから入射した光を検出し、搭載された光量センサが電気信号に変換する、というもの
- フォトダイオード
- CMOS(相補性金属酸化膜半導体)
- 処理するデータにばらつきがある、高速に動いている物体を撮影すると進行方向に向かって像が歪んでしまう、など
- 裏面照射型CMOS