今更聞けない!集積回路(IC)ってどんな仕組みの回路?
集積回路とは文字通り、回路を集積した電子部品です。
もし存在しなかったら、パソコン、スマートフォン、デジタルカメラに家電など、ありとあらゆる便利な電子機器は使えないか、
あるいは何十倍・何百倍と大型になっていたことでしょう。
この記事では、集積回路はどのようなものか。どのような仕組みを持ち、どのような種類があるかなど、基本のキを解説いたします!

目次
1. 集積回路(IC)とは?
回路とは電子部品の繋がりであり、一つの機能です。
その電子部品の各種繋がりを、一枚の基板(チップ)上に実装したものを集積回路と呼びます。
ここで言う電子部品は、抵抗やコンデンサ、トランジスタなど様々ですが、多数の素子が集積し、パッケージングされています。
市販品にせよ、個人の電子工作にせよ、回路構成が共通のものは少なくありません。
増幅回路や論理回路(論理演算を行う、非常に基本的な回路のこと)など、構成が決まっていて、
しかも複雑なものを工作の都度、製造するのは効率が悪く、時間もお金もかかってしまいますね。
集積回路は、そんな面倒な手順を省くために、既にチップ上に必要な回路を実装していてくれる便利な電子部品なのです。
集積回路の歴史は、1952年、アメリカのワシントンD.C.で始まりました。
レーダー科学者ジェフリー・ダマー氏によって発見されます。
この4年前にトランジスタが発明されていたこと。
そして電話を始めとしたさまざまなエレクトロニクス産業において、小型で大量生産可能・ある程度の精度を出せる増幅回路へのニーズがかつてないほど高まっていたことから、
発見の報を聞くや否やすぐに各社で研究開発が行われました。
その後某大手半導体メーカーであるT社に属するジャック・キルビー氏が実用化に成功させると、急速に世界中へ普及していくこととなります。
各社で市販製品への搭載が順次行われていきました。
ちなみに日本では1960年代から開発・研究がさかんとなります。
そのパイオニアは日本を代表する電機メーカーであるS社であり、集積回路搭載モデルの処女作は電卓でした。
当時早川電機工業だった同社は、国産初のトランジスタ製造を行った神戸工業から佐々木正氏に協力を仰ぎ、1966年に世界発となるIC電卓を開発します。
その3年後にはさらに大規模なLSI電卓を売り出しました。
電卓を中心に電子機器の小型化・高機能化が大きく飛躍し、日本のものづくりを発展させます。
なお、佐々木正氏は2018年にご逝去されましたが、氏のDNAは今なお産業の根幹に根付いています。
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2. 集積回路(IC)の製造過程とは?
集積回路の正体は半導体です。
この半導体の基本となるものが、シリコン結晶です。
もちろんコンデンサやトランジスタなどの半導体を実装するためのチップもシリコン製です。
これをウェハーと呼びます。
製造工程としては、純度の高いシリコン結晶を溶かします。
なお、シリコンは4価元素(価電子が4つある元素のこと)に当たります。
不純物のない、純正の半導体なのですが、実は純半導体は電流がほぼ流れません。
そこで、価電子の異なる別の物質を少量混ぜることで、電子部品として成り立たせることが必要です。
混ぜ合わせられるものは、まず3価元素にあたるホウ素やガリウム。
3価元素が混ぜられたシリコンをp型半導体と呼びます。
もう一つ、5価元素を混ぜるものもあります。
リンやヒ素などですね。
5価元素が混ぜられたシリコンをn型半導体と呼びます。
このシリコンを溶かし、ゆっくり回転させながら引き上げます。
すると、一つの大きな円柱形の塊(インゴット)となります。
ちなみにインゴットの直径は、8インチ,12インチなど年々大きくなっていっています。
直径を大きく生成・しかも均一にすることは難易度が高いのですが、大きければ大きいほどたくさんの集積回路を一度に形成できます。
そのため、製造技術は開発・研究され、進化し続けています。
その後、インゴットを0.5mm~2mm程度の薄さにスライスします。
このスライスしたものがウェハーとなり、集積回路の基板となるのです。
ちなみにウェハーの語源は、焼き菓子のウェハースからちなんでいます。
なお、ウェハーに集積回路を形成するにはステッパーと呼ばれる光学装置が用いられます。
ステッパーは半導体製造のために開発されたデバイスで、数百~数千の集積回路を焼き付けることができます。
晴れて集積回路となったウェハーはカッターで個々に切り離されます。
その一つ一つをダイ(die)と呼び、ダイは配線用の端子の台の上に置かれ、ワイヤーで接続されます。
そうしてダイの保護のためプラスティックなどでパッケージングすれば集積回路のできあがりです。
ちなみに現在ではシリコンに代わって、同じ4価元素である炭素(C)で生成されたダイヤモンドが集積回路の材料として注目を浴びています。
ダイヤモンドと言うとマリッジリングなど「高価」なものを思い浮かべるかもしれませんが、実は産業用途によく用いられる素材です。
ダイヤモンドはシリコンに比べて熱伝導率が高いことが注目の理由です。伝導率が高いほど敏感に反応できるため、高性能センサなどで重宝されます。
3. 集積回路の仕組みとは?
集積回路は、前述したウェハー上に多数のトランジスタやFETといった素子が複雑にセッティングされています。
さらにそれらを接続する配線層で構成されます。
集積回路の仕組みを読み解くには、実装される半導体がどのように構成されているのかを知らなくてはなりません。
半導体には様々な形状がありますが、どうやってあんなに小さなチップの上に集められているのか、疑問に思ったことはありませんか?
特に集積回路に必須となるトランジスタを使ったことがある方は、小指の先くらいの大きさであるといった認識ではないでしょうか。
集積回路は、当然ながら多数の回路が集積されているほど性能が良い、ということになります。
その性能向上のために開発研究が進んだのがトランジスタの製法でした。
トランジスタ製法にはいくつかの手法がありますが、集積回路に用いられるのはプレーナー型と呼ばれるものです。
planar【フレーナー】とは「平らな」「平面の」といった意味の英単語で、ウェハーを酸化膜で覆った後、さらにその酸化膜の特定の部分を除去します。
酸化膜はn型半導体となりますが、除去した部分は空洞ができるので、p型半導体の構成要素となる不純物をイオン化し、注入していきます。
すると、平らなn型半導体の中に薄いp型半導体を入れることができ、薄型トランジスタとして機能できるのです。
このプレーナー型製法はイオン注入式と呼び、現在の主流となっています。
これで、おなじみのNPNトランジスタが形成されましたね。実装されたトランジスタがスイッチングを行うことでスムーズな動作のための電流が流れ、回路としての機能が発揮されているのです。
なお、トランジスタ以外の抵抗やコンデンサといった半導体素子も、このプレーナー製法によって製造されています。
半導体は、かつてはこの薄型かつ安定した個体を作ることに非常に高い技術力が必要でした。
そのためプレーナー型製法が開発されるやいなや、集積回路の性能も飛躍的にアップすることとなります。
ちなみにバイポーラ・トランジスタだとn型、p型、n型と複数回の工程が必要となりますが、FETはシンプルな構造のため比較的容易な製造過程で済むことから、現在の集積回路の多くはFETが採用されています。
4. 集積回路を指す用語はたくさん?
集積回路の構造自体は複雑ですが、概念は至ってシンプルです。
しかしながらその概念をわかりづらくしている一つの要因として、頻繁にICとか、LSIとか、そんな集積回路を指すだろうアルファベットが出てくることが挙げられないでしょうか。
そこで、よく出てくる略語をまとめてご紹介いたします。
- ■ICとは
- Integrated Circuitの略です。Integratedとは「統合された」、circuitとは「回路」と言う意味で、そのまま集積回路を指します。
- ■LSIとは
- Large Scale Integratedの略です。大規模集積回路と訳されます。
一つの基板に1000~10万ほどの素子が実装されている集積回路を特にこう呼びます。
そして、複数のLSIで構成していたシステム機能を一つの集積回路に全て収めたものをシステムLSIと言います。 - ■VLSIとは
- Very Large Scale Integratedで、LSIより集積度が高い個体を指し、その素子数は1000万程度と言われます。
こちらは今ではあまり使われていません。
かつてはメーカーや回路によって集積度に大きな違いがあったため、呼び分けが必要であったため、普及したという背景があります。 - ■ULSIとは
- Ultra Large Scale Integratedで、1000万以上の素子が実装された集積回路のことです。こちらも今はあまり使われていません。
- ■SSIおよびMSI
- Small Scale IntegrationおよびMiddle Scale Integratedの略です。
LSIが出る以前の小規模な集積回路の呼称として使われていました。 - ■SoC
- System on a Chipの略です。
現在では、集積回路の上に一つの統合されたシステム自体を組み込んだ製品が開発されており、特にそういった製品を指しSoCの呼称が使われています。
よくCPUと混同されることがありますが、CPUはメモリやマザーボード、ビデオチップなどを別に用意しなくてはシステムを動かすことはできません。
一方SoCはシステムそのもののため、用途によって必要なパーツを集積しています。そのため、単体でのシステム動作を実現しています。
5. 集積回路の種類
ひとくちに集積回路といっても、様々な種類があります。
それらは構造・機能によって分類することができます。以下でご説明いたします。
- モノリシックとハイブリッド
集積回路の構造によってモノリシック型とハイブリット型に分類されます。
モノリシック型とはmonolithicと表記し、「一つの石」という意味です。
文字通り一枚の基板上に素子を実装した集積回路を指します。現在ラインナップされている集積回路の主流で、論理回路、メモリ回路、増幅回路など幅広く用いられます。
集積度が高く、しかも工程が少ないので安価なことが特徴です。一方のハイブリッド型は、基板に絶縁体を用いたものです。
実装されるトランジスタなどは個々で製造されたものとなり、一つ一つが個別に直接貼り付けられたスタイルとなります。
素子は複数が実装されます。モノリシックよりも密度が高く比較的小型化が容易です。大電力・高周波での使用下に向いているという特徴があります。 - デジタルとアナログ
扱う信号によっても種類分けすることができます。
デジタル集積回路とは、デジタル信号(離散値)を処理する集積回路です。
デジタルは0・1だけを扱うシンプルな信号のため、オンオフといったスイッチング機能を有するトランジスタやダイオードがメインに素子として用いられます。
大量生産が可能で過度に精密な正確性はあまり求められません。そのため先ほどご紹介したモノリシック集積回路はデジタル処理であることがほとんどです。アナログ集積回路とは、アナログ信号(連続値)を処理する集積回路です。デジタル信号のように0か1ではなく、量の大小で表記します。
また、アナログ信号をデジタル信号にも変換します。電圧電源や動力源の制御などに用いられます。 - デジタル集積回路をさらに種類分け
デジタル信号の中でもさらに種類分けができます。
それは、ロジック集積回路とメモリ集積回路です。ロジック集積回路は、データ加工や計算などといった、論理的な演算のために用いられる製品です。
マイコン(マイクロコンピュータ)であるPIC(ピック)やH8マイコン(エイチハチ)が一例です。
ちなみにPICとはPeripheral Interface Controllerの略で、インターフェースコントローラーの周辺という意味です。マイクロチップ・テクノロジー社の製品となります。H8は日立製作所が開発し、現在はルネサスエレクトロニクス社が引継ぎ、ラインナップしているマイクロプロセッサです。どちらも使いやすく、使用者が応用できるという自由度の高さが特徴です。
なお、PICやH8にかかわらず、ロジック集積回路は必要に応じてプログラムを書き換え、用途変更することが前提です。
また、ASIC(エーシック)もロジック集積回路としてよく用いられます。
Application Specific ICの略で、特定用途向け集積回路を意味します。
ASICは主に産業用途で、あらかじめ目的別に複数機能が搭載されていることが特徴です。マイコンなどのように後々の書き換えはほとんどしません。メモリ集積回路はデジタルデータを保存するために用いられる集積回路です。
よくメモリ、メモリと言いますが、半導体素子によって構成された記憶媒体がその正体です。
メモリの種類は記憶の保持機能によって、揮発性メモリと不揮発性メモリが存在します。揮発性メモリは電源を切ると記憶した情報が失われるメモリとなります。RAM(Ramdom Access Memory)が代表的ですね。
不揮発性メモリは電源を切ってもメモリが保たれるものを指します。
DRAM(Dynamic Random Access Memory)などが挙げられます。 - アナログ集積回路をさらに種類分け
アナログ集積回路は幅広く用いられるため厳密な種類分けは難しいのですが、汎用回路と専用回路におおまかに分類できます。
代表的なものとしてはオペアンプ回路。汎用回路にあたります。
専用回路にはAC-DCコンバータ(交流電圧を直流電圧に変換するもの)やDC-ACコンバータといった電源回路用、パワーアンプ用や通信機器用などが挙げられます。
オペアンプとは演算と増幅の双方を併せ持つ電子部品です。ちなみに冒頭でも触れましたが、演算回路と増幅回路は本当に複雑で、これを集積回路とした功績は計り知れないものがあります。二本の入力端子を持ち、この入力電圧の差に比例するようにして電圧を出力するという機能を持つことから、差動増幅といった呼び方もなされます。
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