目次
<要旨>
ローム株式会社は、xEV(電動車)の主機インバータやオンボードチャージャー(以下、OBC)、電動コンプレッサー、PTCヒーター※1などに搭載されているゲートドライバ駆動用電源に最適な、絶縁型フライバック方式※2のDC-DCコンバータ「BD7F105EFJ-C」及び「BD7F205EFJ-C」を開発しました。
新製品は、ロームが得意とするアナログ設計技術を駆使することで、従来2次側の電圧・電流を検知するために必要とされたフォトカプラ※3もしくはトランスの補助巻き線及び周辺部品などを不要としました。
フォトカプラの課題である消費電力の大きさや温度による検知精度の変化、経年劣化等を改善するとともに、部品点数削減による小型化も実現しています。
このため、一般的なフライバック方式の絶縁電源回路と比較した場合、フォトカプラ及び電流検出用途の周辺部品等で10個、基板面積にして約30%削減可能です。
また、新製品はスイッチングのオン時間を固定する適応型オンタイム制御機能の搭載により、出力電力に関わらずスイッチング周波数が350kHz付近で安定しています。
車載EMC規格のCISPR25※4に対応する場合、150kHz~300kHzの周波数帯は特にノイズ対策が必要ですが、新製品はこの周波数帯に入らないため、アプリケーションでのノイズ対策が容易です。
これにより、放射ノイズの低減に寄与するスペクトラム拡散機能※5と合わせて、ノイズ設計の工数削減に貢献します。
<背景>
近年、持続可能な社会実現に向けて、ハイブリッド自動車や電気自動車といったxEVの普及が加速しています。
主に電力をエネルギー源とするxEVにおいては、モーターを駆動する主機インバータやエアコン用の電動コンプレッサー、車室内の温度を上げるPTCヒーター等、独自のアプリケーションが搭載されています。
また、いずれのアプリケーションも高い電圧で駆動することから、安全性確保のためにバッテリーのある1次側回路とモーター等のある2次側回路で絶縁する必要があります。
一方、従来の絶縁回路構成では、実装面積や消費電力の大きさ、出力電流によって異なるスイッチング周波数に対するノイズ対策の工数などが課題でした。
ロームは新製品において、フォトカプラが不要な回路構成と安定したスイッチング周波数特性を実現したことにより、アプリケーションの小型化とノイズ設計工数の削減に貢献します。
<製品ラインアップ>
新製品は、部品点数の削減、ノイズ設計の工数削減に加えて、出力電圧を安定させる機能や様々な保護機能を搭載しており、アプリケーションの高信頼性向上にも貢献します。
品番 | 出力電力 [W] |
入力定格電圧 [V] |
入力電圧範囲 [V] |
スイッチ許容電流 [A] |
スイッチング周波数 [kHz] |
動作温度範囲 [℃] |
機能 | パッケージ [mm] |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LCOMP機能*1 | オンタイム制御機能 | 多様な保護機能*2 | |||||||||
NEW BD7F105EFJ-C |
購入はこちら データシート |
4W@VIN=12V | 45 | 3.4 ~ 42.0 | 2.6 | 363 | -40 ~ +125 | ✔ | ✔ | ✔ | HTSOP8-J8 (4.9 × 6.0 × 1.0) |
NEW BD7F205EFJ-C |
購入はこちら データシート |
6W@VIN=12V | 3.8 |
*1 Load Compensation機能:2次側ダイオードが出力負荷によってVFが変わるため、出力電圧が低下する。この出力電圧低下を補正することが出力電流-出力電圧特性の安定化に繋がる。
*2 多様な保護機能:入力低電圧保護機能/加熱保護機能/過電流保護/短絡保護機能/基準電圧端子保護機能/バッテリ短絡保護機能
<評価ボード>
Evaluation Board
BD7F105EFJ-EVK-001
本評価ボードは、8V 〜 32Vの⼊⼒から絶縁16.5Vの電圧を出⼒し、
出⼒最大電流は0.25Aを出⼒できます。
Evaluation Board
BD7F205EFJ-EVK-001
本評価ボードは、8V 〜 32Vの⼊⼒から絶縁6.2V、16.5V、6.2Vの電圧を出⼒し、
出⼒最大電⼒は6Wを出⼒できます。
<アプリケーション例>
新製品は、安全性のためにバッテリーから絶縁して電源供給が必要なゲートドライバ用電源に最適です。
車載機器:主機インバータ、OBC、電動コンプレッサー、PTCヒーター、インバータ など
産業機器:産業機器電源、産業機器用制御(PLC)、インバータ など
<用語説明>
- ※1)PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒーター
- ガソリン車やディーゼル車のように熱源(エンジン)を持たないxEVにおいて、暖房機能を担うアプリケーション。バッテリーからの電気をヒーターエレメントに流すことで熱を発生させ、車室内を暖める。
- ※2)フライバック方式
- 回路形態の一種として絶縁電源の構成に使用される。100W程度までの用途に適し、部品点数やコスト面に優れる。他にフォワード方式などがあり、これらを構成するデバイスの進化が絶縁電源の小型化・高効率化を実現している。
- ※3)フォトカプラ
- 入力された電気信号を発光素子で光に変換したのち、受光素子が再び電気信号に戻す電子部品。入力側と出力側は電気的に絶縁されているため、電気信号によるノイズや感電を防ぎながら、信号を伝達することができる。
- ※4)CISPR25
- 部品やモジュールから周囲に放出されるノイズのEMI(Electromagnetic Interference: 電磁妨害)を評価する国際規格。機器の誤動作を引き起こすノイズの低減を目的として、周波数ごとに定められた規定値内にノイズを収めることが求められる。
- ※5)スペクトラム拡散機能
- スイッチング周波数を固定ではなく、ある幅を持たせて揺らすことで、幅を持つ周波数にノイズエネルギーを拡散する機能。ノイズのピーク値を下げることにより、EMIノイズを軽減する。