世の中のいろいろな場面で需要の高い半導体。
1955年に現在のS社がトランジスタラジオの製品化に成功するやいなや、急速に発展を遂げていきました。
今、私たちの生活のあらゆる電子機器には必ず半導体が内蔵されていると思っていいでしょう。
近年さらなる高性能・高精度化が進み、応用範囲を広げるように。
半導体市況はますますの好調を博してきましたが、2019年に入って少しばかり陰りを見せています。
というのも、しばらく成長を続けてきた当市場ですが、今年は減退が予測されることとなりました。
そんな逆境の中でもプラス成長と言われている半導体もあります。
それが、ディスクリート半導体です。
いったいこのディスクリート半導体はどのようなものなのでしょうか。
この半導体の、強みとは何なのでしょうか。
この記事では、ディスクリート半導体について徹底解説いたします!
1. ディスクリート半導体とは
英語でディスクリート(discrete)は「個別の」「別々の」という意味を持ち、ディスクリート半導体と言った時は「単一目的のために使用される単一機能の」半導体を指します。
IC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)などと言った様々な半導体デバイスを組み合わせて、記憶や演算といった色々な機能をするものではありません。
一素子に一機能となった半導体です。
単一機能のため複雑さがなく、そのため既に決まった仕様が標準化されています。
別メーカーであっても同じ仕様の製品が販売され、型番はメーカー間で共通のものとなることも少なくありません。
また、オートメーションで生産しやすく、安価にラインナップすることができます。つまり、汎用品というわけです。
とは言え、製品によって個別機能を持つICやLSIも、基本的にはディスクリート半導体が寄り集まってできており、どんな電子機器・回路を工作するにしろ、欠かせない存在です。
一つの電子機器には、数十~数百個におよぶディスクリート半導体が搭載されています。
具体的な半導体製品の詳細は後述しますが、例を挙げるとすると
- トランジスタ:電流制御のため
- ダイオード:整流のため
- イメージセンサ:受光による電荷結合・転送のため(デジタルカメラのレンズから入射した光を電気信号に変換する撮影素子のこと)
などとなります。
ただし、この分類はメーカーや機関によって異なります。
そもそも半導体は種類が多すぎて、分類だけでも膨大な数になります。
例えば「受動素子」「能動素子」といった分け方がありますが、
これは前者が供給された電力の整流や増幅をせず、そのまま使うもの。
後者が電力の整流・増幅を行うもの、というもの。さらに受動素子の中で抵抗系半導体やキャパシタ系半導体に分けられますが、明確な決まりはありません。
ディスクリート半導体も同様です。
WSTS(World Semiconductor Trade Statistics:世界半導体市場統計という統計機関のこと)が定義する分類では、ダイオードや小信号トランジスタ、パワートランジスタといった、いわゆるパワー半導体を中心にディスクリート半導体と呼ぶことになっています。しかしながらメーカーや機関によっては光センサや光素子もディスクリート半導体に振り分けています。
どちらかが正解ということもありませんが、近年ディスクリート半導体へのニーズがパワーエレクトロニクス・オプトエレクトロニクスともに成長し続けていることを考え、本項ではパワー半導体のみならず光素子・光センサもまたこの定義に入るといたします。
- ※パワーエレクトロニクス
- ・・・電力制御を目的としたエレクトロニクスデバイスのこと
- ※オプトエレクトロニクス
- ・・・オプティクス(光工学)+エレクトロニクス(電気工学)を合わせた用語で、光素子を利用したエレクトロニクスデバイスのこと
2. ディスクリート半導体にはどのような製品があるか
上記の分類を踏まえたうえで、ディスクリート半導体製品の具体的な種類をご紹介いたします。
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ダイオード
ダイオードはパワーエレクトロニクスデバイスに該当します。
パワー半導体と呼んだ時、ダイオードかトランジスタを指すことも少なくありません。
ダイオードは、電流を一方向に流す性質を利用したものとなります。ただ、ひとくちにダイオードと言っても、整流用のダイオードから高速整流用ダイオード、電子回路の動作に必要な一定の電圧を得るためのツェナーダイオード、
静電容量が可変的なバリキャップ、ESD(静電放電)から回路破壊を防ぐ保護用ダイオードなどが挙げられます。一方でLEDと呼ばれる発光ダイオードや逆に光をキャッチして電流を流すフォトダイオードはオプトエレクトロニクスに分類されます。
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トランジスタ
トランジスタもまたパワー半導体あるいはパワーエレクトロニクスの代表的な素子です。
まだ今ほどパソコンが普及していなかった時代などは、半導体と言えばトランジスタを指していました。
ダイオードは二端子を持つものが一般的ですが、トランジスタは三端子持ち、入出力以外にスイッチングを行い、電流を増幅させる働きがあります。
バイポーラトランジスタ全般を始め、電車などといった大電力下でのインバータ(直流を交流に変換する装置)に使用されるIGBT、高速スイッチングが可能な電界効果型トランジスタ(FET)などがこの分類に当たります。ちなみにFETなど定格が1Wに満たないものの場合、パワー半導体と分けて小信号トランジスタなどと呼ぶこともあります。
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サイリスタ
サイリスタは、水銀整流器にとってかわって誕生した半導体です。
バイポーラデバイスとなりますが、サイリスタはパワー半導体独自のもの。
交流電流は一定の周期で電流の向きや強さが変わりますが、この交流がオンになっている状態の時間の長さをサイリスタによって変化させ、出力電圧を制御します。発表当初はSilicon Controlled Rectifier(シリコン制御整流子)という品名だったため、SCRと呼ばれることもあります。
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イメージセンサ
イメージセンサは、デジタルカメラやスマートフォンなどのカメラ機能で使われる半導体で、オプトエレクトロニクスデバイスにあたります。 カメラのレンズから入射した光をフォトダイオードでキャッチして電荷とし、さらに電荷転送・電荷検出を行うCCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を使って信号に変換して撮影データにする素子です。 ちなみにこのCCDまたはCMOSが画質の良し悪しに大きく影響します。 -
パワーモジュール
モジュールとは、用途に合わせて必要な部品を搭載させた部品群を指します。モジュール自体が「単一目的のための単一機能」であるため、半導体デバイスであればディスクリート半導体と言えるかもしれませんが、パワーモジュールを特にこちらに分類するのが一般的です。 パワーモジュールは、しばしば回路構成が複雑になる電源回路などにおいて、ダイオードやトランジスタといったパワー半導体を既に搭載させ、そのまま使えるようにしたものです。 IGBTなどもパワーモジュールに分類されます。
関連リンク:イメージセンサとは
3. なぜディスクリート半導体は需要が高まっているのか
冒頭でも述べたように、半導体市場の好景気に陰りができたと言われる現在でも、ディスクリート半導体だけは伸びています。
WSTSは2019年の上半期が終わりに差し掛かるころ、今年の半導体市場規模は前年比12.1%減の予測を打ち立てました。
2018年の秋季予測では、2019年は前年比2.6%増となる、と言われていたにもかかわらず、下方修正されることとなったのです。
しかもこの下方修正は一度ではありません。
実は、2月にも3%減の下方修正が発表されており、さらなる市場の減速を予測するという事態に陥っています。
とは言え2020年には回復する、とも発表されており、あまり悲観的になりすぎるのはよくないでしょう。
でも、世界経済の不透明感や地政学リスクは、各国の産業用途に大きく関係する半導体市場にとっては無視できないことも事実です。
そんな中で、ディスクリート半導体だけは2019年もプラス成長が予測されています。
これは、オプトエレクトロニクスおよびセンサ、そしてアクチュエータなど非ICデバイスと呼ばれる産業を含みます。
メモリなどといったIC系が頭打ちとなる中で、なぜディスクリート半導体だけは需要が高まっているのでしょうか。
もちろんあらゆる電子機器に使われているから、というのはあります。
また、ICなどもディスクリート半導体なくしては成り立ちえません。
この要因に加えて、ディスクリート半導体の近年の主戦場として、電気自動車(EV)が台頭しているためです。
電気自動車とはガソリンではなく、電気エネルギーを駆動力とした車のことです。「未来の自動車」なんて呼ばれ方がされることもありますね。
ガソリンを使っていないためエコなこと。
また、従来の自動車と比べて構造をシンプルにできること。
振動がなくスムーズな乗り心地を楽しめることなど、地球にも人にも優しいとして、急速に普及していきました。
ちなみに2038年には世界の新車販売台数の約50%が、2050年には約90%が電気自動車になると予想されています。
また、自動車事故の頻発への対処として、自動運転技術の開発にも電子化は必須となります。
こういった流れの中で注目されているのがディスクリート半導体に分類されるパワー半導体です。
電子機器に必ず搭載されなくてはならないがゆえ、自動車の電子化とともに需要が一気に高まることとなりました。
また、データセンター向け需要も活発です。
データセンターとはデータ通信施設を指しますが、膨大な量のデータ管理の必要性が増えた昨今、こちらも重要性が増している分野です。
データセンターの拡大・増加とともに、ディスクリート半導体(パワー半導体)のニーズも比例して高まっている、という現状です。
こういった分野の他、IH調理器具、ライトレール(路面電車)の開発など多くの電子化分野でも同様の効果が挙げられます。
確かに産業の先行きは不透明なところがあります。しかしながら上記でご紹介したように、時代のニーズに応えて飛躍的に伸びている産業もあります。
そして、どの産業にも応用できるという強みを持つディスクリート半導体は、こういった逆境下においても強い需要を誇るというわけです。
ちなみにディスクリート半導体は日本メーカーが得意とするところです。
2018年に米IC Insights(アメリカの市場調査会社の一つ)が発表した、非IC系の半導体企業売上高のトップランキングには、日本勢が多数ランクインしている状態です。
また、製品自体の真価も目覚ましく、小型軽量化や高性能化、効率化がぐんぐん進んでいることも見どころ。
今後もますます、半導体市況から目が離せませんね。
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4. まとめ
半導体市場の減速が取沙汰される中にあっても、伸びを記録しているディスクリート半導体について解説いたしました。
ディスクリート半導体とは単一目的のために単一機能を有した半導体であること。
分類は様々ですが、ダイオードやトランジスタ、イメージセンサにモジュールなどが代表的な種類として挙げられること。
モノの電子化の立役者で、今後もますます伸びていくであろうことをご理解いただけたでしょうか。
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