EV技術や省エネのための高効率な電力運用を求めて、パワーエレクトロニクス産業の重要度が増しています。
この産業を支える主役は半導体ですが、中には稼働時に発熱したり、あるいは大電流下で使われたりする素子が少なくありません。
そこで陰の立役者となっているのが、ヒートシンクです。
ヒートシンクは既にお使いの方もいらっしゃるかもしれませんが、どういった原理で機能し、どのような製品が高性能と言われるのかは、意外と知られていません。
そこでこの記事では、ヒートシンクについて解説致します。
1.ヒートシンクとは?
ヒートシンクは「Heat sink」の文字通り、熱を鎮める、つまり電子デバイスから生じた熱を発散させることで、温度管理を行うためのデバイスです。
冒頭でもご紹介したように、半導体の中には自らが稼働時に発熱する素子が結構存在します。
例えば三端子レギュレータは電圧降下を行いますが、余剰電圧をジュール熱として放出します。
また、LEDやMOS FETといった耐熱性が高くない素子を大電流下で使おうと思うと、熱が不安材料となってきます。
これら「熱」はデバイスの劣化や故障,あるいは発火の原因を誘発してしまうこともあり、正しく放熱してあげる必要があります。
そこでヒートシンクを用いて空気中に熱を発散させ、適正な温度管理を行う必要があります。
2.ヒートシンクの原理・仕組み
ヒートシンクは日本語で吸熱器と呼ばれることもありますが、ヒートシンク自体が温度を制御しているわけではありません。
原理・仕組みは熱力学第二法則に基づいた、シンプルなもの。熱は自然な状態であれば高温から低温部に異動することになります。
そこでヒートシンクではアルミや銅といった熱伝導率の優れた素材を用い、デバイスの熱をヒートシンク側に移行させ、空気中に放熱する、といった原理・仕組みを採っています。
ヒートシンクはこの素材を、板状や剣山状,あるいは蛇腹状に並べて形成しています。
こうすることでよりデバイスとの接地面が増え、効率的に熱伝導を行うことが可能です。
この熱効率を上げる突起(ヒートシンクの凸部分になっている箇所)をフィンと呼び、ヒートシンクのことを冷却フィンとか放熱フィンとして販売していることもあります。
気をつけたいのが、前述の通りヒートシンクは温度を制御するものではない、ということ。
そのためデバイスの周囲温度よりも低くなることはなく、室温が高い状態だと放熱効率がいつまでも上がらず、熱暴走を起こすケースもあります。
一方でデバイスと使用環境下での温度とで大きな差を生じることがなく、そのため結露しないといったメリットもあります。
なお、このヒートシンクにさらにファンを取り付け、より効率的にデバイスの冷却を行う製品も存在します。
また、当然ながらヒートシンクと放熱したいデバイスとの間に隙間ができてしまうと、素材に密着せずにその分熱伝導の効率が落ちてしまいます。
そこでヒートシンクは同じく熱伝導率の高いシリコン製グリスを塗布して接着させたり両面テープが備わっていたり、特殊ネジやクリップで密着させる必要があります。
3.ヒートシンクの性能の決まり方
ヒートシンクの性能は「熱抵抗」で表されます。
単位はK/Wまたは℃/W。
熱抵抗とは熱の伝わりづらさであり、この数値が小さければ小さいほど高性能なヒートシンクであることを示唆します。
ちなみにこの熱抵抗の出し方は、発熱しているデバイスとヒートシンクそれぞれの両端の温度差を、発熱デバイスに流している電力で割った数値となります。
ではヒートシンクの熱抵抗を下げるためには、どのような要素が関わってくるのでしょうか。
それは材質と大きさ,形状です。
ヒートシンクの「素材」は前述の通り熱伝導率の高い素材が選ばれることとなりますが、よく選ばれる素材にアルミニウムがあります。
アルミニウムは安価で軽量,かつ加工性にも富んでいるため、多くのメーカーからラインナップされており、その価格帯も相まって入手しやすいヒートシンクのうちの一つでしょう。
★アルミニウムについて詳しく解説している記事はこちら
その他では銅もポピュラーです。
銅もまた熱伝導率が高く、比較的入手しやすい素材です。
なお、アルミや銅の変色を防ぐため、表面処理される個体も存在します。
近年ではヒートシンク素材としてセラミックやステンレススティール,ダイヤモンドが用いられます。
とは言え熱伝導率が非常に高い素材はアルミニウムと銅です。
しかしながらアルミニウム以外のヒートシンクの方が高価で、かつ高性能といったことが得てしてあります。
これは、ヒートシンクの「大きさ」「形状」に秘密があります。
前述の通り、発熱するデバイスとの接地面が多いほど、効率的に熱をヒートシンク側に移行させることができるためです。
そのため大型なヒートシンクこそが高性能となりますが、あまりにも大型な製品は、近年のデバイスの小型化にはそぐいません。
ヒートシンクを搭載させることだけで、デバイスのボリュームが増えてしまうとあればなおさらです。
そこでヒートシンクの形状を工夫し、よりフィンによる接地面を構成してその伝導率を高める手法も一般的です。
近年では精密加工技術によって、精度の高いパーツ製造が可能になっており、これに比例してヒートシンクの性能も上がります。
ファンを使うことで熱効率は上げる手法も効果的です。
一方でファンレスの方がデバイス自体の小型化が用意で、また静音性が高いといったメリットを有します。
すなわち、ヒートシンクの性能は「素材」「大きさ」「形状」によって決まる、ということです。
とは言えユーザーが購入の際は、予算やサイズも考慮に入れつつ、その中で熱抵抗の小さい、つまり高性能なヒートシンクを選んでいくこととなるでしょう。
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4.まとめ
ヒートシンクについて解説致しました。
ヒートシンクとは発熱するデバイスの熱をヒートシンク自体に移行させ、空気中に放熱することで温度管理を行う素子であること。
ファンを取り付けることを除けばヒートシンク自体に冷却効果はないこと。
板状や剣山状,蛇腹状の「フィン」によってデバイスとの接地面を増やし、高効率な放熱を行うことなどをお伝えできたでしょうか。
電子工作に携わる方はもちろん、普段から様々な機器に触れている方は、ぜひヒートシンクについて改めて理解を深めてみて下さいね。