ディップスイッチをご存知でしょうか。
パソコンを始めとした機器の拡張や、各種設定モードを変換する際に用いられる、小型のスイッチング素子を指します。
小型なことに加えてICチップのようにプリント基板に実装できることが特徴で、紛失の心配なく、機器のスピーディーかつ容易なカスタマイズが可能です。
近年では家電などの民生用途ではあまり用いられなくなってきましたが、その利便性から各種産業では今なお現役で活躍しています。
この記事では、そんなディップスイッチについて解説いたします。
1. ディップスイッチとは?
ディップスイッチとは、DIP型スイッチという意味で、DIPはDual Inline Package(デュアルインラインパッケージ)の略語です。
ディップスイッチを理解するためには、まずDIPについて知っておきましょう。
① DIPとは?
Dual Inline Package(デュアルインラインパッケージ)とは、直訳すると二元的に並んだパッケージ、となります。
電子部品ではこのような形状をした半導体のパッケージングスタイルを指し、集積回路(汎用ICチップやLSIチップ)として最もよく用いられる手法です。
セラミックまたはプラスティック製の長方形のパッケージに2列のピンが並列しており、そのピンを使ってプリント基板のスルーホールやソケットに挿入して実装します。
あまり電子工作を行わない方でも、一度は目にしたことのあるパッケージと言えるでしょう。
ちなみにDIP型のチップが発明されたのは、1964年。
MOS FETの製品化に大きく貢献したことで知られる、F社の精鋭らによる仕事です。
DIPは機器筐体のプリント基板上に直接実装できるため、機器の外装や寸法を大きく変えることなく、拡張や設定変更を行えます。
また、実装するだけで容易にカスタマイズが可能となり、かつソケット等に挿入しているためおいそれとは外れず、高い信頼性を誇る点でも利便性の高いパッケージングと言えるでしょう。
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② ディップスイッチとは?
ディップスイッチとは、DIP型のスイッチを指します。
ちなみにディップスイッチの方は、最も古い記録ではピエール・P・シュワブ氏が回転式ディップスイッチを開発し、1971年に特許申請が行われています。
前述の通り長方形のパッケージにスイッチング素子が搭載されており、それをピンによってプリント基板に取り付けられる電子部品となります。
また、スイッチは単体ではなく、摺動子(しゅうどうし)を制御するためにストライカー(動作片)と呼ばれるパーツが備わります。
ストライカーがあることによって、接点同士の接触をより正確に、安定して行うことが可能です。
なお、スイッチは単体ではなく複数個(2個~)で搭載されますが、当然ながらきわめて小型。
そのため摺動子はピンセットなどを用いてオンオフ切り替えを行うことが一般的です。
これらスイッチやストライカーを、カバー・ベースと呼ばれる樹脂素材で保護してディップスイッチが成り立っています。
さらにディップスイッチは基板に実装するための端子が備わります。
主に基板上のソケット等に挿入する端子と表面実装する端子に分かれます。
ただし、回路上には使いたいディップスイッチのピンに対応したインターフェースが必要となります。
③ ディップスイッチの種類
ディップスイッチは摺動子の種類によって大きく四つに分類することができます。
すなわち、スライド型、ピアノ型、ロータリー型、ロッカー型です。
さらにスライド型はフラットタイプと凸タイプの形状に分かれたり、ロータリー型はアッパーまたはサイドに摺動子を備えたりと、形状や仕様が異なります。
また、種類によって搭載できるスイッチの数が変わってきます。
また、スライド型・ピアノ型・ロッカー型は一般的にはSPST(Single Pole Single Throw;単極単投。一つの回路に一つの接点という意味)ですが、ロータリー型は可変することができるため、SPDT(Single Pole Double Throw;単極双投)やSP3T、SP4Tなど複数接点を持ち、任意のモード変更が可能です。
もっとも、これらの種類分けはあくまで汎用的なディップスイッチに言えることで、用途によって特別仕様となった製品も存在します。
2. ディップスイッチを使うメリット
ディップスイッチを使うメリットは、なによりも小型・薄型であること。
にもかかわらず、一度実装してしまえば、紛失する心配がきわめて少ないことです。
どれくらい小型・薄型かと言う、標準サイズにおいて高さは3.5mm、ディップスイッチに搭載される端子間の距離は2.54mmほど。
あくまで標準であり、製品によってはさらにミリ単位でダウンサイジングしたディップスイッチも存在します。
このサイズによって非常にスピーディーなスイッチングが可能となり、しかも基板に実装されるため紛失のリスクが低減されます。
また、実装が簡単なこと。
目視で現在の設定確認ができることなども、ユーザーにとっては利便性が高いと言えます。
低価格で入手できる、というのも嬉しいところです。
さらに言うと、ディップスイッチは拡張や設定変更などで用いられるとは言え、一度実装してしまえば何度もオンオフのスイッチングを繰り返す、という素子ではありません。
そのためパーツ同士の摩耗が少ないというメリットにも繋がります。
一方で長期に渡って放置されることで、素子が経年変化を起こしたり異物が混入してしまったりする可能性もあります。
そのため製品にもよりますが、接点に金メッキを施したり、セルフクリーン機構を搭載させたりすることで、機器の信頼性と寿命を損なわない工夫がなされています。
3. ディップスイッチの用途
冒頭でも言及したように、現在ディップスイッチは民生用途ではシーンが限られています。
1990年代頃から家電製品の小型化が急速に進んだこと。加えて不揮発性メモリがよりリーズナブルな価格で手に入るようになったことから、フラッシュメモリ等を利用して機器のディスプレイ上で設定変更を行う形式が普及したためです。
例えばパソコン上では、BIOS(Basic Input / Output System)を用いてプログラム実行や設定変更を行うことが今や当たり前です。
とは言え前述したディップスイッチが持つメリットから、各種産業での機器類のモード設定やキーボード等パソコン周辺機器の動作設定では今なお広く用いられてきました。
なお、DIP型よりもさらに小さなパッケージに入った表面実装用スイッチも、ディップスイッチと称されることがあるほど、私たちの身近に根付いている素子であることがおわかり頂けるでしょう。
4. まとめ
ディップスイッチについてご紹介いたしました。
ディップとはDIP、すなわちDual Inline Package(デュアルインラインパッケージ)の略語であること。
ICチップではお馴染みのパッケージ素子で、長方形のパッケージにスイッチング素子を複数個搭載した、きわめて小型な電子部品であること。
しかしながら基板に直接実装することで、紛失の心配が少なくなること。家電製品では用いられなくなってきたものの、あらゆる産業で活躍していることなどをご理解いただけたでしょうか。
なお、本稿でディップスイッチの種類をいくつかご紹介しておりますが、メーカーによって取扱製品が異なります。
気になるディップスイッチがあったら、ぜひお気軽にお問合せください!
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