マルチプレクサをご存知でしょうか。
MUXやMPXと表記されることもしばしばで、電子回路ではかなり基本的な論理回路となります。
その役割は「信号を合成する」あるいは「信号から欲しいものを選り分けて」出力する、というもの。
機能自体は単純ですが、その汎用性の高さから電子回路はもちろん、光ファイバーや電話回線などの通信事業といった様々な用途で活躍してきました。
この記事では、マルチプレクサについて解説いたします。
1. マルチプレクサとは?
英語でMulti+plexerと表記するこのデバイスは、日本語だと多重変換装置や多重化装置、合成器などと呼ばれることもあります。
そして、冒頭でもご紹介したように、「欲しいものを選り分ける」ことが主な役割となります。
そもそも「多重化」とは、複数のデータを合成することで、一本の伝送路のみを使ってデータ送信することを意味します。
アナログ回路にしろ、デジタル回路にしろ、一つのデバイスにはいくつもの信号が入力されることとなります。
しかしながら、通常使えるラインは一つ。
もし信号ごとにラインを用意していたとしたら、その機器はとてつもなく複雑で、とてつもなく大きくなってしまいますね。
そこでマルチプレクサを搭載させることで、伝送ラインは共有しながらも、入力信号を任意に合成または入力信号から任意の信号を選出し、出力信号を決定させます。
こういった特性から、マルチプレクサは信号の送信側に搭載されることとなります。
なお、逆に一つの信号から複数信号へと変換させる装置はデマルチプレクサと言います。
■仕組み
マルチプレクサのような性質を持つ論理回路を「組み合わせ回路」と分類します。
組み合わせ回路は、出力信号が「どのような入力が行われたか」のみによって決定される論理回路を指します。「入力信号との組み合わせ」といった意味でこのような名称が付けられました。
前回のページにて取り上げたデコーダーも組み合わせ回路に分類されます。
この逆は順序回路で、こちらは出力信号の決まり方が、「入力」に加えて「以前どのように出力したか」に依る回路となります。
順序回路の方はフリップフロップを有するため、データを保持する機能があるのです。
組み合わせ回路にあたるマルチプレクサは、AND回路やOR回路、NOT回路を複数組み合わせることで形成されます。
通常、n本の制御入力、2のn乗のデータ入力と一本のデータ出力を持っています。
これらの論理ゲートをプログラムが指示しながら、入力された複数の信号を出力へ伝送したり、制御したりすることで動作しています。
前述の通り全てが入力信号にのみ左右されますので、入力信号が切り替わると瞬時に出力信号も変化することとなります。
さらにマルチプレクサ自体を複数個連結し、より大きなマルチプレクサを形成できます。
コンピュータ内にはこのような複数のマルチプレクサが搭載されており、より複雑なスイッチングやフィルタリングの役割を果たしています。
上記はデジタル回路におけるマルチプレクサの構成です。
アナログ回路を始めとした、広義の意味ではトランジスタやリレーもマルチプレクサと扱うことがあります。
■デマルチプレクサとの利用と用途
なお、デマルチプレクサと一緒に使われるケースがほとんどです。
マルチプレクサで選別した出力信号をデマルチプレクサの入力側に接続することで、相補的に伝送路を共有することができ、省スペースに繋がります。
そもそも通信などにおいては、送受信双方で信号の行き来があるので、どちら側にも入出力信号を決定づける基本回路が必要ですね。
このマルチプレクサとデマルチプレクサを組み合わせた場合でも、「マルチプレクサ」と呼ばれることとなります。
マルチプレクサとデマルチプレクサを一緒に利用することで、シリアル伝送とパラレル伝送を相互に行ったり、アナログ回路をデジタル制御したりすることが可能となります。
2. 通信におけるマルチプレクサ
前項では回路内におけるマルチプレクサをご紹介しましたが、通信においてもポピュラーな用語です。
通信の「送信」側に搭載され、複数伝送されたデータストリームをマルチプレクサでまとめる(多重化する)ことで一つのストリーミングとすることができます。
つまり、データストリームごとの伝送路を必要とせず、一つのリンクで送信(およびデマルチプレクサも一緒に搭載することで受信)を可能とします。
デマルチプレクサでは、逆にまとめられたストリームをもともとの複数ストリームに変換するため、受信側に搭載されます。
通信分野でもデータ伝送の主流はシリアル伝送からパラレル伝送になっていますが、マルチプレクサ・デマルチプレクサを併せて用いることで、やはり一つの伝送路を共有してシリアル・パラレル両方の変換ができることとなります。
ちなみにこの伝送路はシリアル式ラインで事足り、複数リンクを必要としません。
3. まとめ
マルチプレクサについて解説いたしました。
マルチプレクサは日本語で「多重変換装置」「合成器」などとも言うように、複数の入力信号を合成または入力信号から任意の信号を取り出すことで、一つの信号として出力側にデータ伝送するためのデバイスであること。
マルチプレクサによって、複数信号であっても一つの伝送路のみを利用できること。
マルチプレクサを複数連結させて、大きなマルチプレクサを構成できること。
マルチプレクサとデマルチプレクサを一緒に利用するケースが多いことなどをご理解頂けたでしょうか。
電子回路でも通信分野でも活躍するマルチプレクサを、ぜひこの機会に知っておいてくださいね。
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