エネルギーハーベスティングという言葉をご存知でしょうか。
電池や商用電源に頼らない給電技術を指しますが、これは太陽光発電や風力発電のように大規模なものではありません。
もっと身近な、例えば屋内の照明や電子機器が発する電磁波、あるいは私たちの歩行や腕の動きなど、「これが、エネルギーになるの!?」と驚かされるようなエネルギー源を利用するものとなります。
エネルギーハーベスティング自体は20世紀初頭から存在しました。鉱石ラジオや自転車のダイナモ式ライトがその典型でしょう。
しかしながら21世紀の現代、改めてエネルギーハーベスティングという概念の重要性が叫ばれております。
この記事では、エネルギーハーベスティングについて解説いたします。
1. エネルギーハーベスティングとは?
エナジーハーベスト,環境発電,エナジースカベンジング,アンビエントパワー・・・
様々な呼称が存在しますが、これらが意味するところは、「身の回りにある『力』をエネルギー源とみなし、収穫(ハーベスト)する」ということです。
ただし、冒頭でも述べたように、太陽光発電や風力発電のように大掛かりなものではなく、これまではあまり注目されてこなかった、もっと微小な光や熱・物理的な力等がエネルギーハーベスティングの対象となります。
微小ですので、大きな動力源とはなりえません。
しかしながら機器が壊れるまではいつでも・何度でも給電でき、基本的にはメンテナンスの必要もありません。
配線しなくて済むため場所もとりません。
そのため一度構築してしまえば低コストで運用することができ、さらに使い捨ての一次電池が不要なため、エコロジーという観点からも魅力を有します。
2. エネルギーハーベスティングの応用
前述の通り、エネルギーハーベスティングで得られる電力はそう大きくはありません。
しかしながら、なぜ、エネルギーハーベスティングは現代社会でいっそうの重要性を増しているのでしょうか。
一つには、「ノー電池ノーメンテナンス」へのニーズが高まっている、ということにあります。
とりわけスマートフォンやタブレット端末,ウェアラブルデバイス、リモコン等の小型電子機器。
この中で、エネルギーハーベスティングをいち早く実現しているのがセイコーやシチズンが実現するソーラー電波時計でしょう。
かつて電波時計は、電波受信に膨大なエネルギー消費を伴っていたため、すぐに電池切れを起こしてしまいました。
そこで日本の時計メーカーを中心に、低消費電力パーツを用いるとともに、搭載するソーラーパネルの感度を向上させ、太陽光や屋内照明での効率的な充電を実現してきました。
また、最近ではオーディオガイドやリモコンといった、配線による電源供給には向かず、さらに繰り返し何度でも使われる機器類で、振動発電地や熱発電地が用いられるようになってきました。
「ノー電池ノーメンテナンス」は、まだ電力設備が整っていない地域においても、エネルギーハーベスティングはインフラたりえる可能性を秘めていますね。
さらにもう一つ,エネルギーハーベスティングの普及を促進する大きな理由として、モノのIoT化に伴う、ワイヤレスセンサネットワークの構築が挙げられます。
ワイヤレスセンサネットワークとは、IoTに欠かせないテクノロジーです。
文字通り「センサ」を用いて機器同士を接続する機能を指しますが、センサは「光」「熱」「音(空気振動)」といった身の回りのエネルギーを検知して電気信号に変換する、という仕組みです。
そのためこれら身の回りの「エネルギー」を活用しやすく、かつ身の回りの「エネルギー」だけで機器を制御することができれば、低コストでありとあらゆる機器のIoT化を行うことができるでしょう。
また、IoT化は常に小型化という課題を抱えています。
「スマートホーム」「スマートシティ」「スマートファクトリー」等、IoT化したモノ・事に対して「スマート」の接頭語を付けることが多いですが、大きすぎてかさばってしまっては、全くスマートではないですよね。
その点エネルギーハーベスティングを利用したセンサは配線や電源供給のための端子類を必要としなくなるため、小型軽量化が容易と言えるでしょう。
このように、夢のテクノロジーとも言えるエネルギーハーベスティングですが、課題もいくつか抱えています。
まず、エネルギーはごく少量であるため、どの機器にも使えるわけではない、ということ。
ソーラー電波時計のように、今後の改良によっては消費電力が大きかった機器が低消費電力に変わっていったり、より効率的にエネルギー補給を行うシステムが構築されたりすることはあるでしょう。
しかしながらスマートフォンやパソコンと言った電力消費の多い機器では、まだまだ実用化に至っているとは言い難い面があります。
また、ワイヤレスとなる分、有線と同様の精度や信頼性を誇るかと言われれば、改良が必要と言えますね。
セキュリティ対策も今後必要となってきます。
しかしながらエネルギーハーベスティング市場は多くの産業が注目するところです。
今後の展開が楽しみな分野でもありますね!
3. エネルギーハーベスティングの事例
最後に、エネルギーハーベスティングの事例をいくつかご紹介いたします。
最もイメージしやすいのが、光エネルギーの利用ではないでしょうか。
前述したソーラー電波時計に代表される、ソーラー電池は広く普及していますね。
近年では太陽光のみならず、蛍光灯や白熱灯、LED等の光源でも高効率の充電・給電が可能となってきました。
また、振動や圧力といった、力学的エネルギーも欠かせない話題です。
JR東日本が行った、「床発電システム」の実証実験をご存知でしょうか。
2006年~2008年にかけて東京駅に設置されたもので、歩行者が歩く際に生じる振動エネルギーによって発電する、というエネルギーハーベスティングです。
電磁波の活用も注目されています。
電子機器はそれ自体が電磁波を発しているため、このエネルギーを利用しよう、という考え方です。
今後、ますます電磁波が社会に増えていく中で、効率よく確保できるエネルギーハーベスティングとして話題になっているのです。
実用化はまだ先のようですがF社等が開発に取り組んでいます。
さらに近年では人間の尿によって発電し、「おむつの替え時」を知らせる、なんてエネルギーハーベスティングも!
メディアの中では、エネルギーハーベスティングとは「アイデア勝負だ」とする表現もあります。
そう考えると、人間の想像力が続く限り、エネルギーハーベスティングの可能性は広がっていくことでしょう。
4. まとめ
現代社会においてますます存在感を高める、エネルギーハーベスティングについてご紹介いたしました。
エネルギーハーベスティングとは、身近にあるエネルギーを上手に利用して電子機器に給電を行うテクノロジーの一つであること。
「エネルギー」とは言えそれは微弱で、どんな用途にも使える、というわけではないこと。
しかしながらただ消費されているエネルギーに着目することで、より低コスト&エコが望めること。
近年ではIoT化が追い風となり、注目度が高まっていることをご理解いただけたでしょうか。
文中でも述べたように、エネルギーハーベスティングの可能性はどんどん拡大しています。
開発・研究も盛んですので、今後の市場動向を見守っていきましょう!
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