シャント抵抗をご存知でしょうか。
「抵抗」と言うからには電子回路に何らかの負荷をかけて制御するデバイスとなります。
しかしながらシャント抵抗は通常の抵抗器の中でも「電流検出」を主な用途としており、とりわけ現代そしてこれからのパワーエレクトロニクス産業において、ますます存在感を高めていると言えます。
この記事では、シャント抵抗について解説致します。
1.シャント抵抗とは?仕組みと使われ方
シャント抵抗は通常の抵抗器となりますが、電流検出回路で用いられる抵抗器です。
この電流検出回路というのは、ある電子回路に過電流が流れていないかを検知したり、回路の充電・放電を制御したり管理したり(バッテリーマネジメント)することを目的に用いられます。
そして電流検出回路では直列に挿入した抵抗器両端での電圧降下量によって電流値を計測する方法が用いられ、ここでの抵抗器をシャント抵抗と呼んでいます。
ちなみに語源は英語のShuntで「分流する」となり、回路の分流器(電流検出回路の測定範囲を広げるためのデバイス)として使われていました。
しかしながら現在では必ずしもこの用途とはなりません。分流器として使う場合は、回路に抵抗器を並列に挿入します。
一方電流検出目的としてのシャント抵抗としての仕組みはシンプルで、前述の通り回路に直列に挿入した抵抗器の両端の電圧降下量(電位差とも。どの程度電圧が下がったか)を測定する、というものです。
オームの法則では、電圧(V)は電流(I)×抵抗(R)で求めることができましたね。
つまりシャント抵抗で電圧を知ることができれば、その回路にどれくらいの電流が流れているのかを見極めることができるというわけです。
なお、シャント抵抗は一般的には、高抵抗値のデバイスは用いられることがそう多くありません。
あまりに高抵抗だと、エネルギー消費が大きく回路に干渉してしまうためです。
そのため数ミリ~数百ミリΩ程度の抵抗器が用いられることになりますが、こうなってくると電圧降下量もそこまでの差が出てこないこととなります。
そこでオペアンプによって増幅することでより検出しやすい回路が可能となります。
このシャント抵抗とオペアンプをともに搭載した電流検出回路を電流センスアンプと称します。
ちなみにこの時使われるオペアンプは、オフセット電圧の少ない高精度デバイスであることが求められます。
オフセット電圧とは入力電圧をゼロにしているにもかかわらず、僅かな出力を許してしまうオペアンプの動作です。
オフセット電圧が大きいと、実際の電流測定に支障が出てしまいます。測定精度を高めるためにも、理想的なオペアンプを用いることが望ましいです。
シャント抵抗を用いた検出回路を設計するうえでもう一つ覚えておきたいのが「ローサイド検出」と「ハイサイド検出」です。
これは簡単に言うとシャント抵抗をどこに挿入するか、といった違いです。
ローサイド検出では抵抗器を負荷とグランド(GND)の間に挿入します。
ローサイド検出はコモンモード電圧(ノイズ電圧)がきわめて少なくゼロに近いというのが最大の魅力です。
この魅力は回路設計のしやすさや低コストにも繋がります。
また、電圧がグランドに近いということは高電圧下での電流検出にも適しています。
また、サージの発生しやすい回路にも適用できます。
しかしながらローサイド検出だとシャント抵抗での電圧降下量が、電源グランドと負荷=システムグランド間とで差分として見えてしまうというデメリットがあります。
ハイサイド検出は電源と負荷の間に抵抗器を挿入します。
ハイサイド検出はグランドであっても電流検出が可能なうえ、電源に近いため制御回路との接続が容易です。
一方でコモンモード電圧対策が必須となり、回路も複雑に。コストは高くなる傾向にあります。
2.シャント抵抗の必要性
シャント抵抗の目的は、主に以下の三つに分類することができます。
- 電流制御
- 過電流の検出
- バッテリーマネジメント
いずれも現代のパワーエレクトロニクスにおいて、きわめて重要と言える用途です。
電流制御はその名の通り、各回路に流れる電流をコントロールするためのものです。
ただし電流値のみならず電流を流す時間や位相の制御も目的とされます。
代表的な使用例としては、モーターやDC-DCコンバーター,インバーター等が挙げられます。
過電流検出は回路が故障してしまったり、あるいは短絡してしまったりといったトラブルで急激に過電流が流れてしまった際に役立ちます。
過電流はパーツの劣化や破損のみならず、発火を招くなどとても危険です。
そこでシャント抵抗によって過電流を検出することで回路の動作をストップさせたりパーツ類を保護したりといった安全装置のような重要な役割を果たします。
バッテリーマネジメントは二次電池の充電・放電の管理に当たります。
二次電池は一次電池と異なり繰り返しの充電・放電が可能ですが、どれくらいの電流が使われているかを逐次知ることで、電池残量を検知したりこの残量に合わせた動作を行ったりすることが可能です。
また、過充電はバッテリーに負担をかけてしまいますが、シャント抵抗で電流検出できれば充電・放電量をコントロールもできます。
3.シャント抵抗はどれを使えばいいの?
シャント抵抗は何か特別なデバイスというわけではなく、抵抗器となります。
低抵抗値のデバイスが用いられることが多いというのは前述の通りですが、実際にはどのような電流下で用いるのか、一緒に用いるオペアンプのスペックはどういったものか、どのくらいの予算かなどによっても変わってきます。
また、抵抗器には抵抗温度係数というスペックがあり、これは温度が1℃変化した際の抵抗値の変化の割合を示したものですが、一般的に抵抗温度係数が低ければ温度変化にも強く高精度となりますが、その分価格も高くなる傾向にあります。
さらに近年ではボードに実装できるほどの小型機器から大型機器まで様々ですので、ぜひご自身の用途にあった抵抗器で、シャント抵抗として用いて下さいね。
4.まとめ
シャント抵抗についてご紹介いたしました。
シャント抵抗は抵抗器の中でも電流検出回路で用いられるということ。
低抵抗値のデバイスと高精度オペアンプがともに用いられますが、この組み合わせを電流センスアンプと称していること。
電流検出によってバッテリーコントロールを行ったり、過電流制御を行ったりといったパワーエレクトロニクス産業において欠かせない役割を担っていることなどをお伝えできたでしょうか。
なお、実際の使用環境下によってどの抵抗器が望ましいかは変わってきますので、製品スペックをよくご確認頂くことをお勧めいたします。