過電流やサージがなんらかの原因で回路内に流れ込んでしまった時。
対策をしていないと回路内の電子部品が破損してしまい、使えなくなったり安全性が脅かされたりといったケースが出てきます。
そんな時の保険として知っておきたいのがMOVです。金属酸化物バリスタともいい、バリスタ独自の特性が回路の保護に一役買ってくれます。
この記事では、そんなMOVとはどのようなものか、用途や選び方などを解説いたします。
目次
1. MOV(金属酸化物バリスタ)とは?
MOVはMetal Oxide Varistorの略で、金属酸化物を用いたバリスタです。
バリスタ自体も略語で、Various Resistorが正式名称となります。直訳すると可変抵抗器という意味になりますが、通常の抵抗器とは大きく異なるところがあります。
それは、バリスタ自体の抵抗は低電圧時には高く、電圧が高くなるとそれに合わせて抵抗が低くなるという仕組みを持っていることです。
この特性は「回路の保護」に役立ちます。
電気・電子回路は、必ずしも一定の電流電圧が印加され続けるわけではありません。
例えば雷サージやESD(静電気放電)。天候変化による落雷はもちろん、私たちの身体から放電される静電気によって異常電圧が発生し、回路に流れ込んでしまうことがあります。
また、直流機器(DCモーターなど)は電源を切った時、高圧の逆起電圧を生じてしまいます。
バリスタは通常時の電圧では抵抗値が高いため動作はしませんが、前述のような過電圧下において抵抗値を低くし、その電圧をバリスタ自体に流すことによって回路を保護する役割を担うのです。
なお、この時の抵抗値は電流・電圧と比例関係にありません。
ここも通常の抵抗器とは異なる部分なのですが、ある指定された量の電流が流れると、とたんにバリスタに電圧が印加されるようになります。
この地点でバリスタに流れる電圧をバリスタ電圧と呼び、バリスタを非直線性抵抗素子と言うこともあります。
なお、なぜバリスタが非直線性の抵抗値を描くかということの、ハッキリした理由はわかっていません。
バリスタの構造を簡単に解説すると、バリスタ素子を二枚の電極で挟み、備わったリード線によって回路に繋ぎます。
MOVとは、このバリスタ素子に金属酸化物を使用したものを指します。
使われる金属酸化物によって特性や仕様が異なりますが、MOV製品に最も多い素子は酸化亜鉛にビスマスやプラセオジムなどを添加させたセラミックスです。
酸化亜鉛はZnOの化学式で表される亜鉛を酸化させた素材で、液晶ディスプレイなど透明電極の材料や半導体に用いられてきました。
バリスタに採用すると応答が速く、サージ電流耐量(落雷などによって発生したサージを吸収する能力。詳細は後述)が大きいことから重宝されています。
ZnO系の他にはチタン酸ストロンチウムや炭化ケイ素が用いられます。
代表的なMOVの種類は形状によって分類することができます。
樹脂の外装部分が円形で、リード線が二本出た円板型。バリスタ素子を平面または側面にあしらい、電極と合わせたリング型。
小型で集積回路などに使用する「ボード」に表面実装する角チップ型などがラインナップされています。
回路記号は実はバリエーションがあり、同じバリスタでも異なる場合があります。
一般的にはJISで規格されたものが用いられていますが、その中でも新旧が存在します。
2. MOV(金属酸化物バリスタ)の詳しい特性をさらに解説!
MOVの大きな特徴は印加される電流・電圧によって変わる非直線性の抵抗です。しかしながら細かい特性はまだまだあります。
詳細をご紹介いたします。
① 電気特性
繰り返しになりますが、バリスタの抵抗値はある指定の電圧を超えると急激に小さくなります。
抵抗が低くなったことでバリスタに流れる電圧をバリスタ電圧と呼びますが、通常、バリスタに1mA流れる電圧をバリスタ電圧として設定します。
なお、小型MOVの場合は耐熱性の観点から0.1mA単位の設定となることもあります。
また、バリスタ電圧が発生する点を屈曲点と呼び、その屈曲点以降の曲率はMOV素子によって異なります。
一般的にはZnO系が大きくなり、バリスタの特性にマッチしていると言われます。
② 制限電圧特性
制限電圧という特性もバリスタには欠かせません。
MOVに規定電流が流れた時、備え付けの端子間に電圧が残ることを、もしくはその残った電圧数値を指します。
回路内にサージが入ってしまった時、制限電圧以上の電圧が印加されるとMOVでは耐え切れず、保護するべき回路に影響を与えてしまいます。
そのため、想定される過電圧に対応した制限電圧値をMOVに持たせることが望まれます。
その数値は波高値(振幅)で表されます。
バリスタ素子が同じであった場合、制限電圧はバリスタ電圧にほぼ比例しますが、素子径が大きいほど制限電圧は低くなります。
③ 漏れ電流は少ない
MOVは半導体素子にありがちな漏れ電流は少なく、最大でも100μA(マイクロアンペア)ほどです
④ 極性はない
MOVはしばしばツェナーダイオードと置き換えられますが、大きな違いはMOVには極性がないことです。
そのため円板型のMOVは二本リード線が出ていますが、プラスマイナスの区別はありません。
ちなみにツェナーダイオードから切り替えるメリットとして極性がない、ということの他に、小型・軽量化が可能、コストを抑えられるといったものも挙げられます。
⑤ コンデンサ成分を有する
MOVはセラミックコンデンサと構造が似ています。
素子に金属酸化物であるセラミックを利用し、また、形状もディスク型と積層チップ型が存在します。
そのためMOVには静電容量(二つの電極に電荷を蓄える特性で、どれくらい貯められるかの容量を示したもの)があり、高い抵抗の時には数10pF(ピコファラド)~数1000pFにも及びます。
⑤ コンデンサ成分を有する
MOVはセラミックコンデンサと構造が似ています。素子に金属酸化物であるセラミックを利用し、また、形状もディスク型と積層チップ型が存在します。
そのためMOVには静電容量(二つの電極に電荷を蓄える特性で、どれくらい貯められるかの容量を示したもの)があり、高い抵抗の時には数10pF(ピコファラド)~数1000pFにも及びます。
⑥ バリスタ電圧とMOVの厚みは比例する
バリスタ電圧が高いほどMOVは厚くボリュームが出ます。
3. MOVの使い方・選び方
最後に、MOVの使い方と選び方を解説いたします。
① MOVの使い方
MOVの使い方はシンプルです。
保護したい回路と電源入力間に繋ぎます。ただし、回路に対して並列で繋ぐ必要があります。
こうすることによって電源から通常時の電流・電圧が流れた時は回路にそのまま流れ、何らかの要因で過電流・電圧となった時はMOVの抵抗値が下がり、電流はMOV側に流れるのです。
② MOVの選び方
MOV選びは回路の保護においてとても重要です。
冒頭で述べたように、MOVは言わば保険。通常時は回路に影響を与えることはありませんが、いざ過電流・電圧が流れた時にその真価を発揮します。
そのため気をつけたいのがMOVの寿命です。MOVを劣化したまま使い続けると機能を果たさなくなってしまう可能性があります。こうなっては保険の意味がありません。
MOVを選ぶ時はどのような回路で使うのかを意識し、MOVを長持ちさせることが求められます。
そのため、MOV選びは以下の点に気をつけましょう。
■最大許容回路電圧
最大許容回路電圧とは、MOVに連続して印加することができる回路電圧の上限のことを指します。
これを超えた電圧がMOVに長時間印加され続けるとMOVは劣化、あるいは破損してしまうこととなります。
MOVのデータシートには直流と交流それぞれの最大許容回路電圧が規定されています。
安全面の観点から、回路電圧は最大許容回路電圧の8割以下に留めて使用することが望ましいです。
なお、最大許容回路電圧はバリスタ電圧より小さい値となるので気をつけましょう。
■サージ耐量およびエネルギー耐量
サージ耐量(サージ電流耐量)とは、サージが起こった時、MOVがどれだけサージを吸収できるかどうかを表した数値です。
サージ電流の大きさとサージの持続時間によってあらわされます。このサージ耐量を超えて流し続けるとMOVは破壊されます。
そして、サージ電流を吸収した時発生するパルスのエネルギー量がどれだけ許容できるかを表した数値をエネルギー耐量と言います。
この耐量を超えたサージ・エネルギーを加え続けるとMOVは劣化し、寿命は縮まります。
■使用温度範囲
MOVが動作している最中に許容できる温度、保存できる温度は個体によって異なります。不適切な環境下で使われ続けるとMOVの劣化に繋がります。
なお、面実装用のチップ型MOVを使用する際は高温多湿を避け、そのような環境下においては防湿処理を施しましょう。
■何よりも定格を確認しよう
最大許容回路電圧、サージ電流耐量など、MOVの個体によって定格は異なりますが、何よりも定格の範囲内で使用することが大前提です。
定格性能を超えた使用はMOVの寿命を縮めるだけでなく、不要な発熱・発火を起こしてしまう可能性もあります。
MOVの購入の際はデータシートをご確認ください。ご不明点は購入店に相談してみましょう。
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