電子工作に携わっている方々なら、MOSFETの名前を一度は耳にしたことがあるでしょう。
それくらい、電子機器には欠かせない素子となっています。
MOSFETは電界効果トランジスタ(FET)に金属酸化膜半導体(MOS)を組み合わせた言葉であるように、トランジスタの一種です。
基本動作はオンオフのスイッチングや増幅ですが、従来親しまれてきたバイポーラトランジスタと比べて様々な利点を有しており、パワーエレクトロニクス分野に始まりセンサまで、ありとあらゆるシーンで活躍してきました。
そんなMOSFETですが、どのようなものか実はご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。
そこでこの記事では、MOSFETとはどのような素子か。その用途や選び方について解説いたします。
目次
1. MOSFETとは?
冒頭でもご紹介したように、MOSFETはトランジスタの一種です。
トランジスタは1948年に発明され、あらゆる電子機器に革命を起こすことになった半導体素子ですが、かつてはバイポーラトランジスタが主流でした。
しかしながら1970年代、ユニポーラトランジスタにあたるMOSFETの原型が開発され、機器の小型軽量化や高効率、省エネ化へのニーズが高まるにつれ、MOSFETの存在感は高まり続けていきました。
もちろんバイポーラトランジスタも今なお大きなシェアをもっていますが、MOSFETがメインストリームになりつつあります。
そんなMOSFETについて、詳しく解説いたします。
① MOSFETの概要と魅力
FETはField-Effect Transistor。電界効果トランジスタのことですが、FETをMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造にしたものがMOSFETとなります。
半導体のシリコンの表面を酸化させ、SiO2(二酸化シリコン膜)を生成したうえで、電極として金属をつけた構造をとります。
このMOS構造と言うのは、あらゆるデバイスの基本です。
と言うのも、トランジスタである以上、スイッチングや増幅作用がメイン機能となるのですが、動作速度がきわめて速く、緻密な制御を可能にしています。
詳細は後述しますが電流駆動であったバイポーラトランジスタと比較して電圧駆動であり、原理的には駆動損失(電力ロス)が発生しません。
スイッチがオンの時には電流は流れず、オフ時には電圧印加がなされていない状態であるためです。
駆動電力が小さいということは変換の高効率にも繋がります。
また、電圧制御は入力インピーダンス(交流動作時の抵抗)が高く、オン抵抗も比較的抑えることが可能です。
オン抵抗とはその名の通り、スイッチをオンにした時に発生する抵抗で、これが高いと電流がスムーズに流れません。
さらに言うとその構造上、小型軽量化が可能で、集積化も容易です。
高周波動作に適しており、近年の小型軽量かつ高性能な電子機器において、幅広く利用されてきました。
一方で大電流下の使用に向いていなかったり、静電気に弱かったり、あるいは耐圧を高めるとオン抵抗も高くなるといったデメリットももちろんあります。
② 動作原理
バイポーラトランジスタはp型半導体とn型半導体で構成され、サンドイッチ構造となっています。
n型半導体がマイナスの自由電子が、p型半導体がプラスの正孔が移動することで電流が生じる原理となっているため、「二つの極性が作用しあう」という意味でバイポーラトランジスタ、と言います。
また、「電流の道筋ができること」で電流が流れるという動作原理をとっており、電流駆動であることが何よりの特徴です。
一方のMOSFETはユニポーラトランジスタです。
p型半導体とn型半導体で構成されることは変わりませんが、サンドイッチ構造ではなく、この二つの半導体を積層して形成されています。
ちなみにこの構造だからこそ、バイポーラトランジスタと比べて集積化が容易となっております。
自由電子と正孔どちらかが動作に関与するためユニポーラと呼ばれるようになりました。
端子(電極)は三本有しますが、バイポーラトランジスタのようにコレクタ・ベース・エミッタとは呼ばず、ドレイン・ゲート・ソースといった呼称が用いられます。
ゲートに電圧印加することでソース=ドレイン間に電流パスを形成し、オンオフのスイッチング動作を行います。
このMOSFETは、Nチャネル(Nch)とPチャネル(Pch)にさらに大別することができます。
Nチャネルは土台がp型半導体で、電極がn型半導体であるようなMOSFETを指します。
なお、n型半導体それぞれからはソース・ドレイン、金属部分からはゲートの端子が付属しています。
ソース・ドレイン間だけに電流を流してもほとんど導通しませんが、ドレイン・ソースそれぞれにプラスとマイナスになるよう電流を流し、かつゲートからプラスの電圧を印加することで電流が流れます。
Pチャネルは土台にn型半導体、電極にp型半導体を用いたMOSFETで、ドレイン・ソース間はそれぞれマイナスとプラスになるよう、そしてゲートにはマイナスの電圧を印加することで電流が流れます。
MOSFETは「入力電圧によって」電流が流れるという動作原理をとっており、つまり電圧駆動ということになります。
なお、さらにエンハンスメント(ノーマリーオフ)型とデプレッション(ノーマリーオン)型に分類することができ、前者はゲート電圧を印加して電流が流れるFET、後者はゲートに電圧を印加しない時に電流が流れるFETとなります。
ただ、デプレッション型はかつて電界効果トランジスタとして用いられていたFETに用いられていた仕様で、MOSFETはエンハンスメント型のものがほとんどです。
また、使い勝手の良さから、Nチャネル型MOSFETの方がよく用いられています。
2. MOSFETの用途
繰り返しになりますが、MOSFETはトランジスタです。
そのためリレー、あるいはコンバータやインバータなどパワーエレクトロニクスにおけるスイッチング電源として用いられています。
高速スイッチングによって、従来の機械的なスイッチングでは不可能であった高効率な動作を実現してきました。
こういった高速スイッチングは通信機器にも重宝されています。無線LANなどを始めとしたワイヤレス通信の送受信の回路内では、制御素子として活躍しています。
加えて、MOSFETはアナログ回路にもデジタル回路にも応用できることが魅力の一つです。
そのためデジタル回路の根幹ともいうべき論理回路で採用されており、これをCMOS(相補型電界効果トランジスタ)と呼びます。
ちなみにCMOSはデジタルカメラなどのイメージセンサにも応用されています。光量センサで受光・電荷蓄積をした後、その信号を検出し、転送する役割を果たしています。
もちろんデジ+アナ回路混載チップにも対応可能。近年では多くの機器でデジタル化が進んでいますが、実はアナログ回路もまた技術進歩が目覚ましい分野の一つです。
なぜなら、利便性の高い機器というのは、ほとんどの場合においてデジタル信号からアナログ信号への変換が必要不可欠であるためです。
従来のアナログ回路は小型軽量化・集積化が難しいと言われていました。
バイポーラトランジスタを主な素子として用いていたことが大きいでしょう。
しかしながらMOSFETの普及によってアナログ回路のLSIを実現できたばかりか、デジタル回路でも同様にMOSFETを使うことで、製造コストの低減にも役立つこととなりました。
このように、MOSFETの用途は今やアナログの世界にもデジタルの世界にも広がっており、今後もますます存在感を高めていくことでしょう。
3. MOSFETのデータシートの読み方・選び方
最後に、MOSFETを購入する際に気を付けたい、データシートの読み方・選び方をご紹介いたします。
① 絶対最大定格
絶対最大定格とは、超えてはいけないラインを示した数値です。
MOSFETでは、ゲート・ソース間電圧、ドレイン電流(連続またはパルス)、ドレイン逆電流、チャネル温度などが記載されています。
それぞれを解説すると、ゲート・ソース間電圧はゲートに印加できる電圧の最大定格であり、非常に大切な項目となります。
と言うのも、この定格を超えると機器が故障してしまうため、他の電子部品であれば余裕を持たせた選択をするかと思います。
しかしながらMOSFETに至っては、ゲート・ソース間に印加できる電圧が高い、つまり耐圧が高ければ高いほどオン抵抗が高くなってしまう、という特性を持ちます。
前述の通り、オン抵抗は低い方が理想的です。
これは多くのパワーエレクトロニクスにとって課題なのですが、オン抵抗が高いと燃費が悪くなってしまい、無駄に消費電力を増やしてしまうことに繋がります。
ドレイン-ソース間に印加する電圧と同じ程度の製品を選ぶか、過電圧が心配な方は(100)基板と呼ばれるシリコンウェハーを使うなどの対策があります。
一度、お店の従業員に相談してみましょう。
ドレイン電流とは連続して、または瞬間的に流せる電流の最大定格となります。
ドレイン逆電流はドレイン・ソース間に逆電圧を印加する時、寄生ダイオードに流しても良い電流の最大定格です。
MOSFETはパワーエレクトロニクスなどにおいて、ドレイン・ソースに逆方向に電流を流すケースがありますが、ドレイン方向にダイオードが並列されていることが一般的です。このダイオードにも定格があり、これを超えると機器の故障に繋がります。
チャネル温度とはジャンクション温度と記載されることもあり、周囲温度や消費電力を考慮したうえでの動作温度となります。
② 電気的特性
電気的特性は最大定格よりもさらに項目が分かれますが、注目したいのがオン抵抗と容量、そしてゲートしきい値電圧、ゲート入力電荷量です。
オン抵抗とは何度か言及しているように、スイッチをオンにした状態の抵抗値です。
容量は入力容量、帰還容量、出力容量などにさらに分けられ、簡単に言うとスイッチングの遅延に関わるデータです。
容量が小さいほどスピードが速く、遅延も短くなりますが、その分価格は上がる傾向にあります。
ゲートしきい値電圧とは、ゲートに電圧印加し始めた時、電流が流れるまでのしきい値(閾値。境目のこと)を表したものです。
オン抵抗が高いとゲートしきい値電圧は高く、消費電力も高くなります。
一方でゲートしきい値電圧が低い個体は省エネですが、ノイズに弱い傾向にあります。
③ パッケージ仕様・サイズ
パッケージとはただ半導体素子を封入するケースのみを指すのではなく、表面実装用のものやソケットに差し込むリード線を備えたものなど様々です。
サイズ(外径寸法)も様々で、一般的には小型なものほど高額になりますが、大きい方が最大定格が高かいなどのメリットもあります。
どのような電子回路を作るかによって、適切なパッケージ仕様をお選びください。
CoreStaff ONLINEのMOSFETに関連するメーカー一例は
4. 重要用語まとめCheck It!
高速スイッチングができるトランジスタ・MOSFETについて解説いたしました。
MOSFETは高効率で低消費電力であることに加え、小型軽量化にも一役買っていること。
アナログ・デジタル回路どちらにも搭載されていること。
データシートを見る時は、絶対最大定格やオン抵抗、パッケージ仕様などに気を付けたいことなどをお伝えできたでしょうか。
最後にMOSFETの復習をかねて、以下のクイズに挑戦してみませんか?
答えは一番下に掲載しております。
問題
- MOSFETの魅力を三つ以上挙げてください
- MOSFETは電圧駆動である。〇か×か?
- MOSFETを導通させるためには、ドレイン・ゲート・ソースのどの電極に電圧印加するべき?
- MOSFETの用途を二つ以上挙げてください
- MOSFETはオン抵抗が高いほど性能が良い。〇か×か?
答えはこちら!
- 高速スイッチングが可能、電力ロスが少ない、高効率、小型軽量化や集積化が容易など
- 〇
- ゲート
- パワーエレクトロニクス、ワイヤレス通信、デジタル回路など
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