スマートフォンの写真撮影で手ブレを補正してくれたり、コントローラーを用いて画面の中のキャラクターの動きを自分と連動させたり。あるいは車に強い衝撃が加わった時に、エアバッグを発動させて命を守ってくれたりしてくれる。
これらを実現しているのが、加速度センサーです。
非常に多くの携帯デバイスや車載デバイスに用いられるセンサーで、私たちの生活の幅を広げる立役者です。
とは言え「加速度」と聞くと、光センサーや温度センサーと比べるとなんだか難しいと思う方もいらっしゃるかもしれません。
そこでこの記事では、加速度センサーについてご紹介致します。
1.加速度センサーとは?
ひとくちにセンサーと言っても様々です。
温度変化を検知する温度センサーや光の当たり方を検知する光センサー、近年では甘味や苦味を検知できる味覚センサーまで、IoT社会において非常に多種多様のセンサーが活躍していますね。
本稿でご紹介する加速度センサーは、慣性センサーとして分類されます。
よく並列して語られるジャイロセンサーもこの分類に属します。
慣性とは、外部から何らかの作用を受けない限りは運動状態に変化が生じず、かつその運動を維持しようとする性質ですが、加速度センサーはこれを利用し、外部から何らかの衝撃や振動を加えられたことによる運動の変位量を検知したうえで電気信号に変換させるものとなります。
では加速度が何かと言うと、これは単位時間(当該運動の基準となる時間の長さのこと。 微小時間とも)あたりの速度の変化量のことです。
速度そのものや時間そのものでなく、ある時間内でどれだけ速度が変化しているのかを数字化したもの、ということです。
例えば自転車で時速30キロを出そうと思った時、20秒かかった場合と15秒かかった場合では、後者の方が加速度は高いということがわかります(上昇速度が急になっている)。
ところで自転車のペダルをこいでぐんぐんと速度を上げていっている時、十分な速度が出るまでは身体が後方に引っ張られているような感覚に陥りませんか?
一方である程度のスピードが出てくれば、特にペダルをこがなくてもそのまま自転車はある程度までは一定で進んでいきますよね。 これこそが慣性の法則です。
ニュートン力学の第一の法則ですね。
慣性は外部から影響を受けなければ運動を続けようとするため、急に力を加えてもすぐにその方向へと運動を転換することはせず、もとの(習慣となった)運動を続けようとするため、上記のような現象を発生させているのです。
そして加速度センサーではこの慣性の法則を利用して加速度を検知します。
種類によって様々な仕組みがあるのですが、原理としてはバネとそれを支えるおもりが衝撃や振動によって動くため、その変位量で測定できる、というものです。
バネがどれくらい変位しているか、ということですね。
ニュートンの運動方程式により、おもりにかかった力は加速度に比例するため、バネの変位量を検出できれば加速度もまた判明します。
この加速度センサーを用いて、衝撃・振動はもちろん、重力や物体の動きを測定することが可能です。
例えば「物体がどのくらいの距離移動したのか,「どれくらいの傾きがかけられたか(重力加速度から重力方向を検出している)」,あるいは加速度から「どらくらいの速度で走行しているか」さらにこの速度から「どれくらい変位したか」などを検出できます。
2.加速度センサーの用途
加速度センサーでできることは様々です。
加速度計測を応用することで衝撃や振動、速度や傾きを計測できることは前述の通りです。
これによってデバイスがどれくらい傾けられたか・動いたかを検知し、写真の手ブレ補正や画面の回転、またゲームコントローラーを用いて画面内のキャラクターの制御が可能に。
なんだかロボットアニメを連想させますが、加速度センサーはロボット工学にも当然ながら用いられています。
ロボットを自律走行させる際、重要になってくるのが「自分(ロボット)が今どのような姿勢でどの位置にいるか」の把握です。
例えば転倒したら自分自身で起き上がったり、各セクションでどれくらい歩行したかを判断したりするのに、加速度センサーは大いに役立ってくれます。
車のカーナビゲーションも加速度センサーの用途として有名です。
基本的に衛生上に存在するGPSからの信号を受信することで現在位置を正確に把握するカーナビゲーションですが、トンネル内や山奥など、受信感度が悪い場所も当然ながら存在します。
そんな時に加速度センサーを補助的に使い、「どれくらいの距離を走行したか」「どこをどのように曲がって走行したか」を把握し、現在位置の特定に役立てます。
さらに近年ではIoTの世界でも、加速度センサーによって面白い試みが始まっています。
スマートフォンに搭載させている加速度センサーを利用して、所有者の体の動きや移動手段、うなずき等を把握。
これによって体の悩みを検知したり、幸福度を調査したりするようなアプリ開発が進んでいると言うのです。
MEMS技術の発達によって加速度センサーの小型軽量化が進んでいるとあって、今後いっそう我々の生活の幅を広げてくれる存在と言えそうですね。
3.加速度センサーの種類
加速度センサーは、その構造によっていくつかの種類に分別することができます。
最も有名なのがピエゾ抵抗方式です。
小型化が容易で大量生産も可能なため、多くの携帯デバイスに使われる加速度センサーの種類です。
ピエゾ抵抗方式は、おもりとなる「マス」、このマスの変位を計測する「バネ」、そしてフレームで構成されており、バネ部分にピエゾ抵抗素子が仕込まれています。
ピエゾ抵抗素子とは圧力によって電気抵抗値を変化させる半導体のことです。
バネ部分の半導体が外部からの作用によってひずみを生じさせた分だけ変化した電気抵抗値から、マスの変位量を検知します。
ニュートンの運動方程式で変位量から加速度の算出が可能でしたね。
これによって加速度を計測して、デバイスの動きをセンシングしている、という仕組みです。
また、静電容量方式も覚えておきたい加速度センサーですね。
おもりとなる「マス」が櫛歯型の「固定電極」「可動電極」で構成されており、やはりバネによって支えられています。
外部から何らかの作用が加えられると可動電極が動き、固定電極との間の距離に変位が生じます。
すると各電極間の静電容量が変化するため、この変化量からマスの変位量を検知し、加速度を算出するという仕組みです。
電極はシリコンなどといった安定した素子で構成されるため温度変化に優れており、高精度となります。
姿勢制御を目的に使われるため、車載デバイスとなることが多いです。
さらに熱検知方式という加速度センサーも存在します。
ヒーターなどを用いて筐体内に熱気流を封入し、外的作用によってこの熱気流の分布が変動するのを周囲4か所に取り付けられた各温度センサーによって検知することで加速度を算出するものとなります。
おもりやバネを持たないため衝撃や振動に強く、また価格も良心的なことがほとんどです。
これらの他では周波数変化式や圧電式などが挙げられます。
4.まとめ
加速度センサーについて解説致しました。
加速度センサーとは慣性センサーに分類され、加速度を算出することで物体にかかった振動や衝撃はもちろん、物体がどれくらい傾いたか、物体がどれくらい移動したか、その移動速度や距離はといった測定を可能とすること。
スマートフォンや自動車、果てはロボットにまで用いられており、今後もますます市場で活躍していくであろうことをお伝えできたでしょうか。
私たちの生活に欠かせない加速度センサーを、ぜひこの機会に知ってみて下さい。