私たちが電子機器を駆動させる時、そのエネルギー源は商用電源から得られています。
しかしながらコンセントから出てくる電流は交流であることに対し、ほとんどの電子機器の電子回路は直流でなくては動きません。
「交流送電から直流送電になる可能性」は取沙汰されていますが、まだ実現はしていません。
そこで重要になってくるのが整流器です。整流器はコンセントから得た交流を直流に変化する役目を持つためです。
この記事では、そんな整流器の仕組みや整流器に使われる整流素子、そして整流器の用途や使用例などを徹底解説いたします。
目次
1. 整流器とは
整流とは、交流電力から直流電力を作り出すことを指します。
そのための回路を整流回路、整流回路が内蔵された装置を整流器と呼びます。
順変換装置、コンバータ、AC-DCコンバータなどとも呼ばれます。
convertは「転換する」、ACはAlternating Currentで「交流」、DCはDirect Currentで「直流」をそれぞれ英語で意味します。
ちなみに直流を交流に変換する装置はインバータと呼ばれます。
■整流の由来と重要性
なぜ上記の変換過程を整流と言うか。
それは、交流が描く波の形に依ります。
交流は電流の流れる方向(極性)と電圧が、周期的に変化しますね。
この時、グラフの縦軸に電圧、横軸に時間をとって交流を表すと、正弦波(サインカーブ)と呼ばれる波の形を確認することができます。 グラフ上で正弦波交流は、一定の時間が経つと電圧のプラス極とマイナス極が反転し、それぞれの山を交互に繰り返していくこととなります。
さらに、このプラス側の山とマイナス側の山を1往復(1サイクル)するのにかかる時間を「周期」と呼び、1秒の間に繰り返された周期の数を「周波数」と言います。
よく「Hz(ヘルツ)」という単位を耳にするかもしれませんが、5Hzと言うと1秒間にプラスとマイナスの往復を0.2秒間隔で5サイクルする、ということが表せます。
一方の直流は電流の流れる方向も電圧も常に一定ですね。交流特有の正弦波を一定の直流に「整える」という意味で、整流という用語が用いられるようになりました。
なお、交流を整流器で変換した電流を脈流(脈動電流)と呼びます。脈流は電流の方向は一定のため直流と捉えられますが、電池などから流れる純粋な直流と異なり電圧は変化します。
冒頭でも述べたように、多くの電子部品は交流では動くことができません。そのため、コンセントから供給された交流を直流に変換する整流器が重要な役割を担うのです。
■半波整流と全波整流
整流器には大きく分けて半波整流と全波整流が存在します。
半波整流とは、交流のプラスまたはマイナスどちらか(一般的にはプラスを流す)の電圧を通過させ、どちらか一方を遮断する仕組みの整流器です。
仕組みは後述しますが回路構造がシンプルで低コストでの実現か可能です。
一方で半波分の電流をカットしてしまうため変換効率は悪く、大電流に対応できない・脈動が大きく不安定といった弱点があります。
全波整流とは、プラス・マイナスどちらの電流も通過させる整流器です。整流素子(整流の役割を担う半導体などの部品)の数が増え、回路構造もやや複雑になりますが、変換効率が良く脈動も小さいという利点があります。
どちらが良くてどちらが悪い、ということはありませんが、精密機器には全波整流を採用することがほとんどです。
■回路の平滑化
電子機器には、ただ電圧が一定方向なだけでなく、電圧変化の少ない(脈動が少ない)直流電流が求められます。
そこで、整流器には平滑回路も用いられます。脈流を直流に「平滑」にならす役割を担うことにちなんで、こう名付けられました。
ある程度の精度で事足りる電子機器であれば省略されることもありますが、精密機器には整流回路と並んで欠かせないものとなります。
そしてこの平滑回路で重要な役割を担うのがコンデンサです。
コンデンサの特性を簡単におさらいすると、「電荷の貯蓄」が挙げられます。
蓄えられている電圧よりも大きい電圧がコンデンサに印加されると充電し、逆に印加される電圧の方が低い場合は放電するという特徴でしたね。
交流の電圧が低い周期になった時、コンデンサが放電することによって、その足りない電圧分を補い、安定した電圧供給を行うことが可能になります。
ちなみにコイルも一緒に用いられることがあります。
コイルは電流が大きい時は電流の流れを妨げようとし、小さい時は電流が流れやすくなります。
そのためコンデンサと同様に電圧変化を抑えるために用いられます。
整流器として用いられるコイルはチョークコイルや電源コイルといった呼び方となることが一般的です。
なぜコイルを使うのかというと、コンデンサだけでは完全に直流になることができず、リプルと呼ばれる小さな脈流が残ってしまいます。
そこでこのコイルを併用することでリプルをさらに除去し、ほとんど直流と言えるような電流電圧を電子回路に流しているのです。
2. 整流器の仕組み
整流器は前述した整流回路、平滑回路の他、電圧調整回路など様々な回路が組み合わさり、より安定した直流供給を行っています。
当然ながら整流回路が要となりますが、構造や使用される整流素子によって、その仕組み・そして性能は大きく異なってきます。
種類を全て挙げるとかなり膨大となりますので、私たちの身近な整流器に使用される、代表的な仕組み、そしてその性能をご紹介いたします。
1 単相半波整流回路
最もシンプルでベーシックな整流回路が、こちらの単相半波整流回路です。
単相とは、コンセントから出てくる交流のことです。コンセントは二本の電線を持ち、そこから送電がなされています。
この単相電流に、一つの整流素子を用いるだけで構成できるのが単層半波整流回路です。
交流のマイナス側を遮断するだけですので、先ほどご紹介したように低電圧しか得られず脈動も大きくなりますが低コストのため、小電流下の簡易な出力切り替えなどで使用されています。
2 単相全波整流回路
単相全波整流は同じくコンセントなどから流れる交流を駆動力としたものです。
複数の整流素子を組み合わせ、それをブリッジ回路(二つの並列回路に分かれたあと、別の導線でそれらを再び組み合わせて閉回路にしたもの)にして、交流から流れるマイナス電圧もプラス電圧も通過させ整流する仕組みを持った整流器です。
整流素子は4つ用いられることが多く、ACアダプタなどが代表的な使用例として挙げられます。
3 三相半波整流回路
三相とは、単相交流を三つ重ねた交流を指します。
三相交流はコンセントに取り付けられる電線が三つとなり、それぞれから出た交流を組み合わせることで利用できます。
「単相交流ではコンセントの穴が二つなのに、なぜ単相を三つ重ねる三相が六つの電線を必要としないのか?」と思うかもしれませんが、単相交流を重ねているので二つの電線を共有する、という構造になっています。
三相交流を使用するメリットは「大電流」です。
交流が組み合わさることによって大きな動力を実現しているのです。
また、三相交流は各層の電圧合計はゼロとなっています。
なぜかというと三つの単相交流の位相がちょうどよくずらして(2π/3の位相角)重ねられており、それぞれプラスの最大値・マイナスの最大値が重なり合うためです。周波数も同一となります。
これは高い効率性・扱いやすさを意味しており、産業用途で主に使われている交流です。
この三相の交流に、それぞれ整流素子を一個ずつ(計三個)とりつけたものが三相半波整流です。
4 三相全波整流回路
三相交流それぞれに二個ずつ計六個の整流素子をブリッジ回路で接続し、全波整流を形成した整流回路です。
精密な制御には大電力であっても脈動・高周波低減が欠かせません。そこで高い性能を有する三相全波整流回路は、パワーエレクトロニクスの分野での注目度が高まっています。
なお、三相交流それぞれを三相全波整流で形成した12相整流という整流回路も存在します。
5 整流素子による仕組みの違い
整流回路の構造によって、個数が使い分けられる整流素子ですが、「何を使うか」によってもその仕組みや性能を変えていきます。
様々な素子が存在しますが、最も汎用されるダイオード、そして近年注目度が高まっているトランジスタ、サイリスタの三つについてご紹介いたします。
- ■ダイオード
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整流素子にダイオードを用いた整流器は、シリコン整流器とも呼ばれます。
ダイオードと言えばあらゆる電子部品にお馴染みの半導体ですね。
ダイオードもまた構造によって特性が変わりますが、整流器に用いられるものはpn接合ダイオードです。
pn接合はP型半導体(電子のない空席部分:正孔を持つ半導体)とN型半導体(共有される電子が余って自由電子をもった半導体)をくっつけたものです。
P型半導体の電極をアノード、N型半導体の電極をカソードと呼びますが、アノードからプラスの電圧を印加した時、N型半導体に向けて電子が流れ、電流が流れることとなります。
しかしながらアノードにマイナス電圧を印加しても電流は流れません。N型半導体の自由電子とP型半導体の正孔が逆向きに移動してしまうためです。
結果として、プラスの電圧のみを通過させ、直流とする(整流)ことができています。全波整流回路では、このダイオードをブリッジ回路にすることで逆向きにも整流素子をセッティングし、結果としてマイナス電圧も拾って直流にしています。
- ■サイリスタ
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整流器に水銀が使われていた時代があります。
そもそも水銀と人類の関係性は根深いもの。
古くはエジプトの遺跡などから、水銀で着色した出土品が見つかっています。
しかしながら人体に有害物質であること。
また、水銀整流器は真空中の水銀自体の放電現象で電力変換させるものだったのですが、精度が低かったことから1960年代頃には廃れていくこととなりました。
代わって登場したのがサイリスタという半導体です。
1956年、米ジェネラル・エレクトリック社によって発明されました。
当初はSCR(Silicon Controlled Rectifier:シリコン制御整流子)と名付けられましたが、後にサイリスタに名前を変えます。
発表当時は応用範囲が狭かったことからダイオードに後塵を拝します。
しかしながら近年急速に市場を成長させ、今ではダイオードより小型軽量化が可能で、直流電流を可変的に制御できる素子として話題を集めています。
サイリスタを使った整流作用をご説明すると、「スイッチング」に秘訣があります。しかも、高速なスイッチングが可能なのです。
どういうことかと言うと、サイリスタはn型半導体とp型半導体を交互に接合した構造(4重が一般的)を持つことに起因します。
アノード(外部から電流を入力する端子)とカソード(外部へと電流が出力する端子)、そしてゲート(スイッチングに特化した端子)の三端子を持ちます。
pnpnのような並び順になっています。
そのためアノードに電圧印加しても逆方向となるため電流は流れませんが、ゲート端子から印加するとオン状態となり、電流が流れるようになるのです。
つまり、交流の周期によってオン(導通)オフ(非導通)の切り替え(スイッチング)を行い、回路に流れる交流を連続的に制御し、直流となるよう整流する、という仕組みとなります。
なお、サイリスタはいったん電流が流れるとゲート端子を再びオフにしても電流は流れ続け、アノードとカソード間の電圧をゼロにしない限りはこの状態が保持されます。
この特性をラッチ(latch)と呼びます。
ただ、交流電流であれば一定周期を過ぎれば向きが変わって導通しなくなるため、自然と電流が留まります(消弧)。
したがって、電流を回路に流さないための別途回路は必要ありません。また、小型軽量化しやすいというメリットも持ちます。
ただし、サイリスタは高周波が発生しやすいというデメリットも持ちます。これは電源系統に影響を与える可能性があることから、後述するトランジスタが整流素子として注目されるようになりました。
- ■トランジスタ
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ダイオードと並んで半導体の代表格であるトランジスタ。
スイッチング作用と増幅作用を持ち、あらゆる電子機器に用いられています。
整流器に使われ出したのは最近です。
しかしながら、直流を交流に逆変換するインバータでは使用が顕著でした。
整流器としても、インバータと同様の特性が利用されています。それは、パルス幅変調方式(PWM:Pulse Width Modulation)という制御方式です。
PWMはスイッチング作用のある半導体の多くが持つ特性で、二つ一組にしてブリッジ回路とし、それらを電流が流れている状態で交互にオンオフして使います。
交流電圧の向きによってオンオフをして整流し、直流を作り出すという仕組みです。
なお、オンオフの時間を調整することで電流を流す時間も任意のものとし、長ければ周波数が高く、短ければ低く、といった具合に調節も可能です。
したがって、高周波抑制にも効果があるということを示します。このように、出力する直流電力を比較的安定させられることから、ダイオード・サイリスタと並んで整流器の主要素子として活躍しています。
3. 整流器の用途と使用例
繰り返しになりますが、整流器の用途は「商用電源から供給される交流電流を、電子回路を駆動させる直流電流にする」ことです。
使用例は様々で、ACアダプタなどは非常に身近ですね。
また、整流器を指すコンバータも、民生・産業用途ともに大切な役割を担っています。
さらに、整流器は高周波または無線周波数の電圧測定にも使われています。
周波数が高すぎて通常の交流電圧系では対処できない時、その交流を整流器で直流に変換することで測定しています。
また、AGC回路と言う、アンテナから受信した電波の強さに応じて受信機の感度を自動調整する回路にて、一緒に用いられる低周波増幅器や中間周波増幅器の出力電圧を整流に変換することにも用いられています。